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241. 【雪解けの寄付と氷崖の伏兵】

極北の朝は早い。石造りの家の中に差し込む微かな光が、昨夜の寒さを物語っていた。

「……んぅ……温かい、ですわ……」

ローズが先に目を覚ますと、そこにはまたしても奇妙な光景があった。今朝のヴァレスが「抱き枕」に選んだのは、ローズではなくトリトスだったのだ。ヴァレスはトリトスの腕に力一杯絡みつき、その胸元に顔を埋めて熟睡している。

「……トリトス、おはよう。お疲れ様」

ローズの呼びかけに、トリトスは虚空を見つめたまま、死んだ魚のような目で答えた。

「……ああ。……生きた心地がしなかった。我の魔力障壁すら物理的に突破してくるとは、恐るべき執着心だ」

ようやく目を覚ましたヴァレスは、自分が誰に絡みついていたかを理解するなり、顔を林檎のように真っ赤にした。

「も、申し訳ございませんわ! トリトス様! わたくし、あまりの寒さに理性が飛んでいたようですわ!」

「……謝罪は受け入れる。だがヴァレス、出来れば……いや、切実に、今夜からは気をつけて欲しい。我の肋骨が悲鳴を上げているのだ」

魔王ともあろう者が、真剣な顔で「懇願」する姿に、ローズは思わず吹き出した。

出発の直前、ローズは族長を呼び止めると、遺跡から回収したばかりの金貨が詰まった袋を差し出した。

「これ、取っておきなさい。古代遺跡に眠っていた金貨よ。約200枚はあるわ」

「な……!? こんな大金、受け取れん! 娘たちを救ってもらった恩だけでも返しきれんというのに!」

「これは恩売りじゃないわ、先行投資よ。この村が存続してくれないと、デッドロックの情報網が途絶えてしまう。村の復興資金に当てなさい。……いいわね?」

ローズの冷徹だが筋の通った言葉に、族長は震える手で袋を受け取り、深く、深く頭を下げた。

「またね、マール、ジェシカ。元気でやるのよ」

「皆さん! 本当にありがとうございました!」

姉妹の精一杯の見送りを受け、ソリは北西の「氷の崖」へと向かった。

数時間の行軍の末、一行は青白く発光する茂みに覆われた崖下に到着した。そこには、触れるだけで周囲の大気を凍らせるほど強力な魔力を帯びた「氷結の実」が実っていた。

「……よし。手袋は3重、忘れないで」

三人はジェシカたちに言われた通り、分厚い耐寒手袋を3枚重ねて装着し、慎重に実を摘み取り始める。甘く、しかし鼻の奥が凍るような鋭い香りが周囲に漂った。

「これですわね……瑞々しくて、まるで宝石のようですわ」

ヴァレスが一つ目の実を慎重に手下げ鞄へ収めた、その時。

――グォォォォォオオン!!

地響きのような咆哮が、氷の崖に反響した。

雪煙の向こうから現れたのは、通常の熊の倍近い巨体を誇る「三目白熊トライ・アイズ・ベア」の群れだった。そしてその中心には、一際巨大で、陽光を弾いて鈍く輝く「三目黄金熊」が、突然変異種特有の威圧感を放ちながら鎮座していた。

「……甘い香りに誘われたのは、私たちだけじゃなかったみたいね」

ローズが3重の手袋越しに投げナイフを数本、指の間に挟む。

「氷結の実を主食とする捕食者か。我らの『収穫』を横取りするつもりなら、容赦はせぬぞ」

トリトスが3重の手袋で少々動きにくい拳を握り締め、静かに魔力を練り始めた。


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