235. 【故郷の門と血眼(ブラッドアイ)の再会】
雪原を染めた赤が、極北の冷気に晒されて瞬時に凍りついていく。ヴァレスがようやく溜飲を下げ、トリトスが最後の一袋を積み終えた頃、行く手に巨大な氷の防壁と鋭い木柵で囲まれた集落が見えてきた。
マールとジェシカの故郷、「ブラッドアイの村」。
デッドロックの過酷な環境に適応し、魔力の影響で瞳を赤く輝かせる一族が住まう、北の最果ての拠点である。
「止まれ! 何者だ!」
村の入り口に差しかかると、物見櫓から鋭い声が飛んだ。即座に、厚手の魔獣皮で作られた頑丈な防寒着に身を包んだ十数人の自警団が現れ、槍をソリへと向ける。彼らの瞳は、吹雪の中でも紅く不気味に発光していた。
「私よ! マールよ! ジェシカも一緒よ!」
「私たち、帰ってきたわ!」
御者台から二人が身を乗り出して叫ぶ。自警団の男たちが一瞬呆気にとられたように顔を見合わせ、やがてその中の一人が驚愕の声を上げた。
「マールにジェシカ……!? 門を開けろ! 族長の娘たちが帰ってきたぞ!」
重厚な氷の門がゆっくりと開き、ソリが村の中へと滑り込む。広場には、同じように毛皮の防寒着を着込んだ村人たちが次々と集まってきた。
「マール! ジェシカ!!」
群衆を割り、必死の形相で駆け寄ってきたのは、一人の女性と、威厳ある体躯をした初老の男だった。マールたちの母親と、この村を束ねる族長である父親だ。
「お父さん! お母さん!」
二人はソリから飛び降りるなり、両親の胸に飛び込んだ。言葉にならない再会の抱擁が、極寒の空気を一瞬だけ温める。
「……賑やかなことね。」
ローズがソリから降り、物珍しそうに周囲を見渡す。一方、トリトスはソリの荷台に積まれた山のような麻袋を眺め、ヴァレスに声をかけた。
「ヴァレス。この袋の中身だが、後の検分で首が腐っていては報酬が目減りする。移動中に鮮度が落ちぬよう、まとめて冷気で凍らせておけ」
「……トリトス様、再会の感動的なシーンでなんて世俗的な指示を出しますの。ですが、それも『お片付け』の一環ですわね。……えいっ」
ヴァレスが指先を振ると、盗賊の首と装備が詰まった麻袋がパキパキと音を立てて硬化し、純白の霜に覆われた。
「……あら、お父様、お母様。初めまして。この子たちを連れ戻しました、ヴァレスと申しますわ」
ヴァレスが船酔いを感じさせない完璧な淑女の礼を見せると、村人たちはその高貴な美しさと、その後ろに積み上げられた「カチコチに凍った盗賊入りの袋」という異常な光景に、一瞬だけ沈黙した。
しかし、娘たちを救い出した恩人であることに変わりはない。族長は涙を拭い、力強くローズたちに向き直った。
「……よくぞ、娘たちを。異邦の客人よ、最大級の歓迎を約束しよう」




