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230. 【極北への準備と三つの依頼】

アステリアの朝は早い。ローズが宿の主人とネリー親子の今後の打ち合わせをしている間、トリトスは単身、街の冒険者ギルドへと足を運んでいた。

デッドロックという死地へ向かう以上、ただ船を待つのは時間の浪費だ。情報の集積地であるギルドで、現地の「手触り」を確かめるのが、BAR【プラチナ】流の事前調査である。

「……さて、何があるか」

トリトスはギルドの掲示板に並ぶ、煤けた依頼書の束に視線を走らせる。デッドロック近辺の依頼はどれも難易度が高く、報酬のわりに生存率が低いものばかりだが、彼はその中から手際よく三通を引き抜いた。

一つ、採取依頼:『氷結の実』。

極北の特定エリアにのみ自生し、強力な冷却魔法の媒体となる希少な果実の採集だ。

二つ、討伐依頼:『ガランフィール街道の盗賊討伐』。

砕氷船が着く対岸の港街ガランフィール。そこからデッドロックの入り口へと続く街道を根城にする、凶悪な盗賊団の掃討である。

三つ、回収依頼:『冒険者の遺品回収』。

北の古代遺跡で消息を絶った数名の冒険者たちのギルドカード、および高価な装備品の回収だ。

「採取、討伐、回収……。掃除屋の仕事としては、実に妥当なラインだな」

受付で手続きを済ませ、宿に戻ったトリトスを、買い出しを終えたローズたちが迎えた。

「おかえり、トリトス。こっちも準備は万全よ。ヴァレスたちが港で確認してきたわ。定期船は明日の早朝、氷を砕く大型船『タイタン号』が出航するそうよ」

「うむ。こちらもガランフィール周辺の依頼をいくつか受けてきた。旅の『ついで』に片付けるとしよう」

トリトスが提示した依頼書の内容に、ローズは満足げに口角を上げた。

「採取に討伐に回収ね……。どれもデッドロックの環境を把握するのにちょうどいいわ。さすがね」

「ふふ、トリトス様もなかなか働き者ですわね。わたくしも、街道の汚れ(盗賊)を掃除するのを楽しみにしていますわ」

ヴァレスが鞄の金具をカチリと鳴らし、不敵に微笑む。

ネリーと母親、そしてジェシカとマールに見守られながら、一行は明朝の出航に向けて最後の装備確認に入る。

アステリアでの騒動は、もう過去のこと。

彼女たちの視線はすでに、白銀の絶望が支配する地「デッドロック」の先、輝石が待つ深淵へと向けられていた。


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