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228. 【湯煙の惨劇と魔王の失言】

極寒の空気を遮るように立ち上る真っ白な湯煙。アステリア最高級宿の露天風呂は、死地を潜り抜けた一行の身体を芯から解きほぐしていった。

「……はぁ、生き返るわね。冷気と魔力の過演算で、脳の回路がオーバーヒート気味だったわ」

ローズが湯船の縁に頭を預け、しなやかな足を伸ばして深く息をつく。

「温泉は美肌と精神の安らぎに不可欠ですわ。ほら、ネリーさんもお母様も、もっと肩まで浸かりなさいな」

ヴァレスがタオルを頭に乗せ、優雅に湯を湛える。その横で、ネリーが憧れの眼差しで年上の女性たちの肢体を見つめていた。

「……いいなぁ。皆さん、お顔も綺麗だけど、身体も……その、とっても躍動感があって。特に、ヴァレスさんはその……」

ネリーの視線は、五人の中でも一際豊かな曲線を描くヴァレスの胸元に釘付けだった。それに気づいたマールとジェシカが、悪戯っぽく笑いながらヴァレスに詰め寄る。

「本当、ヴァレス様って凄いです……! ちょっと失礼して……うわ、柔らかい!」

「あ、ずるいお姉ちゃん! 私も! ……本当だ、マシュマロみたいですわ!」

「あらあら、お転婆さんたちですわね。あまり騒ぐと……きゃっ!」

姉妹に揉みくちゃにされたヴァレスが、バランスを崩して隣のローズに抱きつこうと手を伸ばした。

「ローズ、貴女も少しは揉まれて柔軟になりなさいな! 無理やりでも解してあげますわ!」

「ちょっとヴァレス、やめなさい……! 冗談じゃないわ、触るなと言ってるでしょ!」

ローズが本気で身を捩って抵抗した瞬間、無意識に手にしていたタオルに、特訓中の魔力が過剰に充填された。

――ドォォォォン!!

凄まじい衝撃波が走り、男女の浴場を隔てていた厚い竹製の屏が、紙細工のように粉砕された。

「なっ……!?」

舞い上がる竹の破片と霧散する湯煙の向こう側。そこには、静かに月を愛でながら湯に浸かっていたトリトスが、悠然とこちらを眺めていた。

「…………」

一瞬の沈黙。マールとジェシカが悲鳴を上げ、ネリーたちが顔を真っ赤にして固まる中、トリトスは一切動じることなく、不敵な笑みさえ浮かべて宣った。

「……クハハ。何をそう慌てる。我らは一蓮托生の『家族』ではないか。今さらその程度の肌を晒したところで、我が心が揺らぐことはない。……案ずるな、何とも思わぬわ。まぁ、後、我は(屏を壊された)被害者でもあるな」

「……脳のデータごとデリート(消去)してやるわ、その記憶!!」

「トリトス様、その発言はデリカシーの欠片もないですわぁぁぁ!!」

ローズの鋭い拳と、ヴァレスの渾身の裏拳が、湯煙を割ってトリトスの顔面にクリーンヒットした。アステリアの静かな夜空に、元魔王の「グハッ…何故…」という情けない声が虚しく響き渡った。


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