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227. 【休息と紳士の沈黙】

金色の花の香りが漂う室内。清算という「仕事」を終えた安堵感が、一行の肩から少しずつ緊張を解いていく。そんな中、ヴァレスが優雅に髪をかき上げ、ローズの顔を覗き込んだ。

「ローズ。随分と根を詰めておられたでしょう? ここの宿には、この地特有の素晴らしい温泉があるんですのよ。今はわたくしたちしか居りませんし、みんなで入りましょう。マールもジェシカも、行きましょうね?」

「……温泉? ああ、そういえばここ、火山帯が近かったわね。いいわ、少し脳を冷却する時間が必要だったところよ」

ローズが端末を閉じ、軽く伸びをした。その横で、これまで沈黙を保っていたトリトスが、不服そうに眉をひそめて口を開く。

「ヴァレスよ……。我は一応、男という扱いなのだが? その『みんな』に我は含まれておらぬようだな」

「あら、トリトス様。こういう時は余計な口を挟まず、無言を貫くのが紳士というものですわよ?」

ヴァレスは完璧な微笑みを崩さず、ぴしゃりと言い放った。魔王として異界を統べていたトリトスも、この完璧なまでの「令嬢の正論」には言葉を詰まらせる。

「……うむ。この場では我の方が肩身が狭いようだな。よかろう、我も別の浴場へ行くとしよう。ネリーと母親も、風呂くらいは入れるはずだ。……ヴァレス、そちらの方は頼むぞ」

「もちろんですわ、トリトス様。清潔と安らぎはわたくしの専門分野ですもの」

ヴァレスが胸を張ると、トリトスは「やれやれ」と小さく首を振り、漆黒のコートを翻して部屋を後にした。

「さあ、そうと決まれば準備をいたしましょう。マール、ジェシカ、お母様を支えて差し上げて。ローズ、最高にリラックスできる香油を持っていますのよ」

「ふふ……、お手柔らかにお願いするわ、ヴァレス」

極寒のアステリアで見つけた、金色の奇跡。湯煙の向こう側には、これから始まる「デッドロック」への過酷な旅を前にした、束の間の穏やかな時間が待っていた。

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