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226. 【金色に染まる願いと清算】

最高級宿「アステリア・グランド」の最上階。ヴァレスが用意した豪華なスイートルームの扉が開くと、そこには大きな麻袋を担ぎ、どこか晴れやかな顔をしたローズとトリトスの姿があった。

「あら、お帰りなさいませ。随分と……生活感の溢れる『大漁』ですこと」

ヴァレスがティーカップを置き、麻袋から覗くフライパンの柄を苦笑混じりに見つめて迎える。その視線の先では、ネリーがベッドの傍らで眠る母親の手を必死に握りしめていた。

「ええ、ネリーと母親の依頼は完了。……トリトス、仕上げをお願い」

ローズの合図に、トリトスは無言で頷き、眠る母親の額にそっと指先を触れた。ユリオンの魔法陣を反転させ、ローズがハッキングで解き放った生命力の奔流――その最後の純粋な欠片を、トリトスが魔力の道筋を整え、本来の持ち主へと還流させた。

「……う、ん……」

母親の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれる。白く濁っていた瞳は、今や澄み渡るような本来の色彩を取り戻していた。

「……ネリー? ネリーなの……?」

「お母さん! 私が見えるの!?」

「ええ……。見えるわ。貴方の可愛い顔が、こんなに……」

二人が泣きながら抱き合うその瞬間、サイドテーブルの花瓶に挿されていた、あばら屋から持ってきた「ハニーレオン」の花に劇的な変化が起きた。

萎れかけていたピンク色の花弁が、内側から溢れ出すような光を放ち、一瞬にして鮮やかな金色へと染まり上がったのだ。それと同時に、凍てつくアステリアの夜を溶かすような、芳醇で甘い香りが部屋の隅々まで満たしていった。

「願いが……叶った。本当に金色になったわ……!」

ネリーの歓喜の声に、ローズはふっと、戦術家らしからぬ柔らかな表情を浮かべた。

「さて……。感傷に浸るのもいいけれど、大事な『清算』を済ませましょうか」

ローズはテーブルの上に、ユリオンの地下室から回収してきた金貨の山を広げた。その輝きは、ハニーレオンの金色の花弁と共鳴するように眩しく室内に反射する。

「今回の『掃除』で回収した金貨は合計1000枚。これを今から分配するわ」

ローズは淀みない手つきで金貨を分けていった。

「まず、母親とネリーに300枚。これはユリオンに奪われていた時間の利息であり、これからの生活再建費よ。そして私とトリトス、拠点を守ったヴァレスの三人に各100枚。これはプロとしての正当な報酬」

そこでローズは、隣で呆然と立っていた姉妹に視線を向け、二つの金貨の塊を差し出した。

「そしてマール、ジェシカ。貴方たち二人にも各100枚ずつ。今回の功労者だもの」

「えっ!? ひゃ、100枚……!?」

「そんな、多すぎます! 私たちはただ、ローズ様のお手伝いをしただけで……」

マールとジェシカは、これまでに見たこともない額の金貨を前に、顔を見合わせて激しく戸惑った。震える手で受け取ることすら躊躇う二人に対し、ヴァレスが鞄の金具をカチリと鳴らして優雅に微笑んだ。

「お受け取りなさい。わたくしたちが選ぶのは常に『最高級』。貴女たちの働きが、それに見合う価値あるものだったと、ローズが認めたのですわ」

最後に、ローズは残りの200枚を袋にまとめ、腰のベルトに固定した。

「残りの200枚は、今後の旅費とBAR【プラチナ】の共通経費としてプールしておくわ。……これで全員、納得ね?」

「……はいっ! ありがとうございます、ローズ様!」

マールとジェシカは、重たい金貨の袋を胸に抱え、誇らしさと緊張が入り混じった顔で深く一礼した。


金色の花の香りに包まれ、停滞していた彼らの運命が、極北の地デッドロックへ向けて再び力強く動き出そうとしていた。

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