221. 【狂気の代償】
「ふ、ふふ……あはははは! 浄化? 決定打? 笑わせないで。わたくしの情熱を、こんなところで終わらせてたまるものですか!」
膝をついていたユリオンが、狂ったように笑いながら立ち上がった。その手には、未だ禍々しい光を放つ予備の呪いの腕輪が握られている。
「ユリオン、無駄よ。魔獣を失った今のあなたに、これ以上抗う力なんて――」
ローズが冷たく警告するが、ユリオンはその腕輪を自らの細い手首に叩きつけるように嵌めた。
「あああああああッ!!」
倉庫内にユリオンの絶叫が響き渡る。彼女は腕輪の安全制御を自ら破壊し、本来「吸い上げる」はずの生命力を、無理やり自分自身の肉体へと「逆流」させ始めた。
「……愚かな。他者から奪った生命力の奔流を、人の身で御せると思っているのか」
トリトスが眉をひそめる。ユリオンの皮膚の下を、黒い血管のような紋様が這い回り、その体躯が不自然に膨張し始めた。彼女のピンク色の髪はどす黒く変色し、瞳からは光が失われ、ただの暗黒が広がる。
「力が……溢れる、わ……! これで、あなたたちを……跪かせて……! わたくしの養分に……ッ!」
ユリオンの背後から、無理やり肉肉しく実体化させられた「呪いの腕」が数本突き出した。それはもはや魔法ではなく、生命の歪んだ暴走そのものだ。彼女の自我は崩壊しかけているが、その分、純粋な破壊の力だけが爆発的に膨れ上がっていく。
「ローズ、下がれ。これより先は、もはや対人戦闘ではない。……『害獣』の駆除だ」
トリトスが冷徹に告げ、その瞳を鋭い金色の魔眼へと変質させた。
「いえ、私がやるわ。正気に戻して、奪った生命力や財を頂かないとね」
ローズもまた、新たなナイフを指の間に挟み、暴走するユリオンを見据えた。その言葉には、参謀としての冷静さと、BAR【プラチナ】の一員としての貪欲さが混じっている。
「フッ……、イーグルみたいな考え方だな、ローズよ。……よかろう。この世界は魔法が使える。この旅で使いこなせるよう、我が指導してやろう」
トリトスはニヤリと不敵に笑うと、再びユリオンを見据えた。
「私には決定打がないから助かるわ」
ローズの言葉を合図に、二人は暴走する狂気へと同時に踏み出した。




