220. 【重なり合う刃】
漆黒の魔獣が咆哮を上げ、腕輪の鎖が擦れるような不気味な音を立てて襲いかかる。その巨躯が放つ圧迫感に、倉庫の鉄骨が悲鳴を上げた。
「……フン、図体ばかりで芸がない」
トリトスが一歩前へ踏み出す。彼が空中に指で幾何学的な紋様を描くと、魔獣の足元に重力波を伴う紫色の魔力結界が展開された。
「ガアアッ!?」
地を這うような重圧に、魔獣の動きがぴたりと止まる。物理的な拘束ではなく、存在そのものを空間に縫い止める高位の魔術だ。
「仕留めろ、ローズ!」
トリトスの合図と同時に、ローズが風を切り裂き地を蹴った。
彼女は流れるような動作で後ろ腰のホルスターから三本の投げナイフを抜き放つ。冷徹な知性が宿る赤い瞳が、魔獣の胸元で脈動する「魔力の核」を完璧に捉えていた。
「これでも喰らいなさい!」
ローズの手からナイフが放たれた瞬間、背後に立つトリトスが鋭く掌を突き出した。
「我が魔力を、その刃に宿さん。――【属性付与:絶望】」
空中を飛ぶナイフに、トリトスの放った眩い光が重なる。ただの鋼だった刃は、神々しくも禍々しい光を纏い、あらゆる魔的防御を食い破る「必滅の楔」へと変貌した。
キィィィィン!
凄まじい音を立てて、エンチャントされたナイフが魔獣の分厚い霧の体を貫いた。一つ、二つ、そして三つ。すべてが正確無比に、ユリオンの魔法の核へと突き刺さる。
「な、何ですって……!? 私の魔獣が、ただのナイフで……!」
ユリオンが驚愕に目を見開く。ナイフが突き刺さった箇所から金色のひび割れが広がり、人々の苦悶を内包していた黒い霧が、光に浄化されるように霧散していく。
「ただのナイフではない。貴様の浅ましい術を断つ、決定打だ」
トリトスが静かに告げる。魔獣が消滅し、倉庫の中には膝をつくユリオンと、冷たい視線を送る二人の姿だけが残された。




