215. 【仕組まれた呪い】
ローズは手元の端末を操作し、不可視の電子信号と魔力波形を部屋全体に走らせた。ホログラムの画面上に表示された数値は、母親の心拍数や体温ではなく、彼女の腕に光る「腕輪」から放たれる不気味なノイズを克明に描き出している。
「ねぇ……。お嬢さん。お母さんを起こしてくれる?」
「えっ……。どうして?」
「お母さんに確認したい事があるの」
ネリーが不安げに母親の肩を揺らすと、母親は深い眠りから覚めたように、ゆっくりと瞼を持ち上げた。しかし、その瞳は白く濁り、目の前のローズを捉えることはない。
「ネリー、帰ってきたのね。いつもありがとう……」
母親は手探りで娘の頭を撫で、慈しむように微笑んだ。
「今日はお客さんがきてるの」
「こんにちは……。初めまして。私はローズ。冒険者よ。お母さんに少し聞きたい事があるの」
「冒険者の方が私に何を……」
「貴方の腕輪。それを何処で手に入れたの?」
ローズの声は冷徹なまでに静かだった。その視線は、母親の細い手首に巻かれた、古びた銀色の腕輪に釘付けになっている。
「あ……。これは夫の知り合いがくれたものです」
「経緯を聞いてもいいかしら?」
「夫も冒険者でした。ですが、魔物に殺されたと悲報を受けました。絶望している私に、一緒にパーティーを組んでいた女の方が、慰みになればと頂いた物です……」
その言葉を聞いた瞬間、ローズの端末が警告音を発した。腕輪から放たれているのは、着用者の生命力を少しずつ削り、視覚などの感覚器官を優先的に麻痺させる「因果固定」の呪い。それは自然界に存在する病などではなく、極めて高度な知識を持つ術者による「人為的な産物」だった。
「慰み……。笑わせないで。それは慰めどころか、あなたの命を苗床にするための寄生具よ」
ローズが吐き捨てるように言うと、ネリーと母親は息を呑んだ。
「全く……。行く先々でトラブルって、まるで私がイーグルみたいで腹が立つわ。おそらく、その女があなたの夫を殺した張本人……あるいはその一味ね」
「そんな……まさか……。彼女は親身になって、私を助けてくれたのに……」
絶望に染まる母親の顔。ローズは手袋をはめた指先で腕輪の表面をなぞった。
「報酬は高くつくけど、私に依頼しなさい。貴方達を導いてあげるわ!」
ローズの瞳に、獲物を追い詰める狩人としての冷たい光が宿った。




