表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/265

210. 【看板娘の宝物と掃除屋の密談】

カランカラン、とBAR【プラチナ】のドアベルが軽快な音を立てた。

「ただいま戻ったッス!」

「……あー、重てぇ。麻袋に荷物詰め込みすぎだろ」

大きな麻袋を肩に担いだイーグルと、その後ろをスキップするように歩くアリス。二人の帰還に、カウンターでグラスを磨いていたアリエルと、隅のテーブルで小型ゴーレムの関節をいじっていたフェネカが同時に顔を上げた。

「おかえり。……なんだアリス、やけに足取りが軽いな。掃除をサボれるのがそんなに嬉しいか?」

アリエルがぶっきらぼうに声をかけるが、その鋭い視線はアリスの髪で揺れる「青い花」のヘアピンを即座に捉えていた。

「見て見てッス! イーグル様に買ってもらったッス! これ、アリエル様からのボーナスだって言ってたッスよ!」

アリスが嬉しそうに、そして誇らしげに首を振ってヘアピンを見せびらかす。

「……ほぅ。俺が指示したボーナス、ねぇ?」

アリエルが面白がるように片眉を上げ、イーグルに冷ややかな、それでいて楽しげな視線を向ける。

「……フェネカ。俺が今日、コイツにそんな粋な計らいを命じた記憶があるか?」

フェネカはヘッドセットのインカムを指先で弄りながら、視線すら上げずに口を開いた。

「ボクの記憶には一切ないなぁ。……イーグル、素直になった方がもっとモテると思うけど? ボクがアリスに本当のことを言っちゃおうか?」

「……ふん。俺からっつったって誰も喜ばねぇよ。ほら、頼まれてた食材だ。アリス、とっとと厨房に運べ!」

イーグルは顔を背け、誤魔化すように麻袋をカウンターに放り出すと、そのまま奥のテーブルへと移動した。その後ろ姿を、アリスはヘアピンを触りながら「照れてるッスねぇ」とニヤニヤしながら見送った。

「……まぁいい、似合ってるぞアリス」

アリエルが短く吐き捨てると、アリスは「えへへ、ありがとッス!」と元気よく厨房へ消えていった。

静かになった店内で、アリエルはイーグルの向かい側に腰を下ろした。冗談めかした空気は一瞬で消え、店主の瞳には「掃除屋」としての深い静寂が戻る。

「……で、ギルドの方はどうだった。女の尻でも追いかけて収穫なし、なんてオチじゃないだろうな」

イーグルは無言で、コートのポケットからクシャクシャになった依頼書をテーブルに放り出した。

「……ポイズンミスト渓谷周辺、毒斑の狼の討伐。表向きはな。だが、奥の方は立ち入り禁止だ。Aランクの通行証がいる。ギルド嬢のエーシャによれば、ポイズンミスト渓谷に『赤の輝石』があるって話だ」

アリエルがその依頼書を指先でなぞる。

「ほぅ……。どうやら七つの輝石の話はおとぎ話じゃないようだな。北に『紫』があるなら、西に『赤』があってもおかしくねぇ」

「あぁ。エーシャの話じゃ、あの霧は物理的な強さじゃどうにもならねぇ。肺を焼かれたくなきゃ、相応の準備が必要だ」

フェネカが椅子をくるりと回転させ、皮肉な笑みを浮かべてこちらを向いた。

「毒耐性の魔導具かぁ……。ある程度量産されてるヤツを改良するくらいならできるけど、肺を焼くほどってなると話は別だね。ボクのプライドにかけて最高のものを用意してあげてもいいけど、それなりに時間もコストもかかるかな。君たちの命の値段、安いといいんだけど?」

アリエルは立ち上がり、棚から一番強い酒を取り出した。

「金なら心配するな。……夜の営業が終わったら、必要なもんを書き出せ。明日の朝には揃えてやる」

アリエルが注いだ強い酒の香りが、店内に静かに広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ