204. 【姉妹の絆(ラスト・オーダー)】
「ひ、ひぃぃ……っ! 助けて、誰か助けて……!!」
アリエルの拳が放つ熱波に焼かれ、カミーユは無様に床を這いずり回る。その背後では、マールの暴走した紅い魔力が渦を巻き、地下会場の天井を削り取っていた。
だが、その狂乱の嵐を切り裂くように、凛とした、しかし震える声が響いた。
「……マール。もう、いいのよ」
魔法銀の檻の中。アリスが手際よくロックピックで扉を開けた瞬間、そこには自由になったジェシカが立っていた。彼女は衰弱しきった足取りで、紅い光の奔流の中へと歩み寄る。
「お、お姉ちゃん……? ああ、ああああ……!」
意識を混濁させ、血の涙を流していたマールの前に、ジェシカがそっと両手を広げた。暴走する魔力がジェシカの肌を焼き、服を切り裂くが、彼女はひるまない。そのまま、震える妹を力強く抱きしめた。
「ごめんね、怖い思いをさせて。……もう大丈夫。私はここにいるわ」
ジェシカの瞳が穏やかな真紅に輝くと、マールの荒れ狂っていた魔力が、まるで母の手に撫でられた子供のように急速に静まり、吸い込まれていく。会場を支配していた死の重圧が消え、静寂が戻った。
「……フッ。家族愛もいいもんだ」
アリエルはそれを見て、小さく口角を上げた。そして、その視線を再び足元の「ゴミ」へと落とす。
「さて……。邪魔が入らなくなったな、女狐」
「ま、待って! 彼女たちは無事でしょう!? だったらもう――」
カミーユの醜い命乞いを、アリエルは鼻で笑って切り捨てた。
「無事なら罪が消えるのか? あんたが彼女たちから奪った尊厳と時間は、どこへ行った? ……安心しな。あんたの行き先は、ここよりずっと清潔な地獄だ」
アリエルは腰を深く落とし、ガントレットに全ての魔力を集約させる。蒼い炎が腕全体を包み込み、空間が歪むほどの密度に達した。
「俺の特製カクテルだ。……残さず飲み込みな! ふんっ!!」
グシャ!!
放たれた一撃は、カミーユの絶叫ごと空間を突き破った。衝撃波が地下の壁を粉砕し、彼女の存在を文字通り「消去」して、その奥の岩盤まで巨大な穴を開けた。
静まり返った会場で、アリエルはゆっくりと拳を下ろし、シガーに火を灯した。
「……イーグル、アリス、撤収だ。お嬢さんたちを連れて帰るぞ」
「まぁ、待てよアリエル。ここには不要な財宝があるだろ?」
イーグルはアリエルの肩に手を置き、散乱する貴族たちの落とし物や、金庫室の扉を指さしてニヤリと笑った。
「クックッ……がめついねぇ。好きにしな」
アリエルは吐き出した紫煙越しに、抱き合う姉妹を見つめた。今回の「掃除」は、どうやら期待以上の報酬になりそうだった。




