203. 【蹂躙の鉄拳】
「五月蝿いぞ、女狐。その減らず口ごと『掃除』してやる」
アリエルが低く唸ると同時に、右腕のガントレットが過負荷に近い魔力を帯び、バチバチと蒼白い火花を散らした。
暴走するマールの紅い魔力と、アリエルの蒼い闘気が混ざり合い、会場の空気はもはや呼吸すら困難なほどに濃密となる。
「行け、不浄の鉄塊共。その野蛮な拳を砕いて差し上げなさい」
カミーユが扇子を振り下ろすと、三体の巨大な蒸気ゴーレムが地響きを立てて突進してきた。
一体が家一軒分ほどもある鉄の塊。並の魔導師なら、その威圧感だけで圧殺されるだろう。
だが、アリエルは逃げない。一歩、強く踏み込んだ。
「……オラァッ!!」
迎撃の拳が、先頭のゴーレムの胴体にめり込む。直後、ガントレットに充填された魔力が内部で爆発的に開放された。
ドォォォォォン!!
硬度の高い魔導合金で作られたゴーレムの装甲が、まるでお菓子の缶のようにひしゃげ、裏側まで突き抜ける。内部の蒸気機関が誘爆し、鉄の巨躯が文字通り「紙クズ」となって後方の壁まで吹き飛んだ。
「な、なんですって……!? 私のゴーレムを、ただの拳一つで……!」
カミーユの余裕が初めて崩れた。残る二体が左右からアリエルを挟み込もうとするが、アリエルの動きはさらに加速する。
「遅ぇな」
左のゴーレムの腕を掴んで強引に引き寄せると、それを盾にして右のゴーレムの突進を真っ向から受け止める。
凄まじい金属音が響き、二体のゴーレムが絡まり合った瞬間、アリエルはその中心に向けて全力の正拳突きを叩き込んだ。
バキィィィィン!!
二体同時に沈黙。火花と油を撒き散らしながら崩落する残骸を、アリエルは一顧だにせず踏み越える。その眼光は、真っ直ぐにカミーユの喉元を捉えていた。
「ひ、ひいぃっ! 警備兵! 何をしている、この男を殺しなさい!」
カミーユが悲鳴を上げるが、警備兵たちはイーグルの正確無比な狙撃と、アリスの影からの強襲によって、すでに物言わぬ肉塊へと変えられていた。
「……さて、女狐。アンタの『ゴミ』は全部片付いた。次はアンタの番だ」
アリエルの鉄拳が、カミーユの喉元数センチのところで止まる。拳から放たれる熱気が、彼女の化粧を溶かし、扇子を焼き焦がした。
「……お、お金なら出すわ! この店も、この女もあげる! だから、命だけは――」
「残念だが俺の仕事は『掃除』だ。……夜の帳と一緒に、地獄まで流してやるよ」
アリエルが拳を振りかぶったその時、檻の方で異常な光が溢れ出した。




