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202. 【暴走する紅蓮の視界】

「お姉ちゃん……っ!」

マールの喉から、ひび割れた悲鳴が漏れた。

ステージ上の檻の中で、魔力を吸い出す導管を繋がれ、生ける屍のように晒し者にされているジェシカ。その尊厳を泥靴で踏みにじるような光景が、マールの理性を焼き切った。

「待て、マーサ! まだ配置が――」

アリエルの制止も届かない。

マールが両手で自身の顔を覆い、指の隙間からその瞳を剥き出しにした。

「……あ、アアアアアアアアッ!!」

瞬間、地下会場の空気が「重低音」と共に爆ぜた。

マールの瞳から溢れ出したのは、これまでの哀しみや恐怖を燃料にした、どす黒いまでの真紅の波動。ブラッドアイの固有魔力が、彼女の制御を超えて暴走を開始した。

「な、なんだ!? 体が動か……っ」

「ぎゃあああ! 目が、目が焼ける!!」

ワイングラスを傾けていた仮面の貴族たちが、次々と椅子から転げ落ちる。マールの無差別な「視縛しばく」が会場全体を侵食し、逃げ惑う観客も、剣を構えようとした警備兵も、その場に縫い付けられたように硬直した。

「……チッ、やりやがったな。作戦変更だ!」

アリエルがローブを翻し、ガントレットをガチンと鳴らす。本来の「隠密潜入」は、マールの放った紅い光によって、最悪の「正面衝突」へと書き換えられた。

「イーグル! 配置は無視だ、撃ちまくれ! アリスは檻の鍵を壊せ!」

「面白くなってきたな……。的打ちなら得意だ。」

動けない警備兵たちの眉間を、イーグルの銃弾が正確に、かつ容赦なく撃ち抜いていく。アリスは人の波を泳ぐように移動し、ステージ上の銀の檻へと肉薄する。

だが、ステージの袖から、マールの呪縛を撥ね退ける異質な魔力が立ち上がった。

「……おやおや。不法侵入の上に、貴重な『商品』を傷つけるとは。野蛮な掃除屋スカベンジャー共め」

蒼い燐光の中から、ブルードール娼館の主——カミーユが、扇子で口元を隠しながら現れた。その周囲には、蒸気ゴーレムたちが、機械的な音を立ててアリエルたちの前に立ち塞がる。

「マール、しっかりしろ! 飲まれるな!」

アリエルは暴走する魔力の中心にいるマーサの肩を掴むが、彼女の瞳からは紅い涙が溢れ、意識はすでに混濁していた。


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