201. 【蒼い人形と電子の猟犬】
「……わかった。一分待って」
ローズの瞳が、デバイスの光を反射して青白くまたたいた。彼女の細い指先が空中に展開された透過ホログラムを踊るように叩くと、膨大な数のノードが繋がり、アストラル・ノアの立体地図が網目状に浮き上がる。
「見つけた。お姉さんの魔道具、最後の一瞬だけ信号が跳ね上がってるわ。これは通信じゃなくて……出品物の『品質証明』のために、強制的に魔力を流し込まれた時のスパイク見たいね」
「……出品物だと?」
アリエルの声が低く地を這う。ローズは険しい表情で地図の一点をズームした。
「場所は上層地区……貴族街の一角にある『ブルードール娼館』。表向きは高級会員制の店だけど、その地下深くには、さらに歪んだ欲望を処理するための巨大な闇空間がある。今夜、そこで行われるオークションの目玉は――『北の最果て、紅き瞳の生体薬』。ジェシカさんは、生きたまま競売にかけられるわ」
「貴族街のド真ん中で、そんな真似を……ッ!」
マールが唇を噛み切りそうなほど強く噛む。アリエルはカウンターの奥の部屋に行き、ローブを羽織って出てきた。
「灯台下暗しってわけか。綺麗なドレスの下にクソを溜め込んでやがる。……イーグル、アリス、潜入の準備を。正面から暴れれば、連中、証拠隠滅のために真っ先に『商品』を処分しやがるぞ。
今回、俺のハンマーは使えねぇ。ガントレットで行く。トリトス、BARは任せるぞ。」
「クハハ……、アリエルはもう少し感情を抑えた方が良いぞ。」
トリトスはカウンター席から立ち上がり、アリエルと入れ違う様にバーカウンターに入った。
「……影から一匹ずつ、静かに仕留めてサポートしてやるよ。」
イーグルがリボルバーにサプレッサーを装着し、アリスはすでに輪郭を朧げにさせ、店の影と同化していた。
深夜二時。きらびやかな貴族街の喧騒をよそに、アリエルたちは『ブルードール娼館』の裏口から音もなく侵入した。店内は蒼い燐光に包まれ、甘く退廃的な香りが漂っている。
「ここから先は電子ロックと生体検知の二重結界があるわ。でも、私のウイルスを食わせれば……はい、おしまい。三〇秒だけ無力化するわね」
ローズのハッキングにより、重厚な隠し扉が音もなく開く。
その先を下った地下空間には、上層の優雅さとは対照的な、冷徹で狂気的な社交場が広がっていた。
仮面を被った紳士淑女たちが、ワイングラスを片手にステージを凝視している。
「……いた。あそこ……!」
マールが息を呑む。
ステージ中央、冷たい魔法銀の檻の中に、鎖で繋がれ、ぐったりと項垂れるジェシカの姿があった。その瞳は、薬物か魔力の酷使によるものか、濁った真紅に淀んでいる。
「……クソが。どいつもこいつも、いい服着てやがる」
アリエルはローブの裏に隠した武器に手をかけ、猛獣のような低い笑みを漏らした。
「イーグル、アリス、配置に。……オークションの終了が鳴る前に、この会場(ゴミ溜め)ごと買い叩いてやる」




