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199. 【閉ざされた地の同胞】

「私はマール・ブラッド。忌まわしき種族、ブラッドアイ(血眼族)です。似顔絵の女性は私の姉ジェシカ・ブラッドです……」

女性――マールが語り始めると、店内の空気がひときわ冷たく澄み渡った。

「私たちブラッドアイは人間、獣人に嫌われ、追いやられるように北の大陸『デッドロック』に住む先住民族です」

その告白を聞いた瞬間、イーグルがくわえていたタバコの灰が、音もなく床に落ちた。トリトスも読んでいた古書を完全に閉じ、観察するようにマーサを見つめる。

「……、ほう。『デッドロック』か」

アリエルはそう言うと、深く腕を組み、その鋭い視線をカウンターの端に座るイーグルへと向けた。イーグルは帽子を目深に被り直し、リボルバーを弄ぶ手を止める。

「……封鎖された北の大陸に住める場所があるなんてな」

イーグルの声には、いつもの軽薄さはなく、どこか遠い異郷を想うような響きがあった。

「さ……、寒さを和らぐ方法もありますし、意外と住みやすいですよ」

マールは力なく微笑もうとしたが、その瞳の焦点はどこにも合っていない。

アリエルは彼女を見据えたまま、琥珀色の液体を新しいグラスに注いだ。

「その封鎖された北の大陸から来たアンタは、どこでこのBARを知った? 情報も封鎖されているはずだ。現に俺たちは、北の大陸の情報を何も持ってねぇ」

アリエルの問いは、静かだが鋭い。極寒の地、デッドロック。そこは数百年前から他大陸との交流が絶たれた「断絶の大地」だ。

「ムーン・エルフの放浪商人からです。昔から懇意にさせてもらってます」

その答えに、カウンターの奥で本を読んでいたトリトスが顔を上げた。

「ムーン・エルフ……。ギルドを買い叩いたあの爺さんか。クハハ……、随分我らの事を高く買っているようだな」

「あの爺さん……。クックッ。だからギルドの紋章なんか渡してきたのか。してやられたぜ」

アリエルは吐き出した紫煙を振り払うように手を振ると、再びイーグルに視線を投げた。

「イーグル、お前も『北』には行った事ないだろう?」

イーグルはふっと短く笑い、リボルバーをホルスターに収めた。

「……こんな美人の誘いなら、北に行くのも悪くない」

「ありがとう……、ございます……。姉のジェシカはアストラル・ノア、この街に連れてこられたと言う情報は掴んでいます。連れ去った人物までは分かっていません。でも、連れ去る理由はブラッドアイの『目』が目的のハズです」

マールはそう言うと、自身の瞼をゆっくりと持ち上げ、その『目』をアリエルに晒した。

瞬間、彼女の瞳が真紅ブラッド・レッドに発光し、周囲の魔力が一気に凝固する。

「うっ……!」

アリエルはその場でピタリと止まった。全身の神経を冷たい鎖で縛り上げられたような、逃れようのない感覚。

「動けないな……。お嬢さん。無理やり動いても大丈夫か?」

「出来るならどうぞ」

マールはニヤリと笑うと、挑発的な言葉でアリエルに返した。

「うおおおおおお! ふんっ!」

アリエルは全身の筋肉に力を入れ、鉄の鎖を切るように動き出した。

バキン!

物理的な衝撃波がカウンターを揺らし、魔力の束縛が砕け散る。

「キャッ!」

マールは短い悲鳴をあげると、術の反動でカウンターに突っ伏した。


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