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198. 【復讐の美酒と代償の重み】

夜の帳が降りる頃、アストラル・ノアのスラム街。その澱んだ闇を切り裂くように、BAR【プラチナ】の銀の看板が妖しく、そして冷たく発光していた。ここは、まっとうな光の下では生きられない者や、剥き出しの絶望に焼かれた者が、最後の救いを求めて辿り着く終着駅。

カランカラン

静寂を破るカウベルの音と共に、夜の冷気を纏った一人の女性が足を踏み入れた。

「いらっしゃい。」

アリエルがぶっきらぼうに迎える。女性は周囲を警戒するような鋭い視線を投げた後、ふらりとカウンターの椅子に腰を下ろした。その指先はわずかに震え、纏う空気には焦げ付いたような怒りと悲しみが混じっている。

「ギルドの後ろ盾を持っているBARはここであってるか?」

アリエルはシガーをくわえ直し、使い古されたライターの火を灯した。ゆらりと立ち上る紫煙が、彼女とアリエルの境界を曖昧にする。

「……それが?」

短く、相手の出方を伺うような問い。女性はそれに応えるように、懐から一枚の似顔絵を取り出し、震える手でカウンターへ滑らせた。描かれていたのは、依頼人の女性によく似た、穏やかな微笑みを浮かべる女性の顔だった。

「人探しと復讐をしたい。それを受けれる人材を……ここで用意出来るか?」

彼女の言葉に、店内の温度がわずかに下がった。カウンターの隅で古書を読んでいたトリトスがページをめくる手を止め、闇に溶けていたアリスの気配がわずかに濃くなる。アリエルは彼女の前に清潔なコースターを滑らせると、低く、喉を鳴らすように笑った。

「……クックッ。ソイツは酒の種類と金額次第だな。」

「金……、すまないが今はこれだけしかない。」

女性はそう言うと、カウンターに銀貨10枚と、石の取れた古ぼけたネックレス、そして傷だらけだが年季の入った金の腕輪を置いた。それは彼女が必死に守り抜いてきた、文字通りの全財産であることは明白だった。

アリエルはそれら一瞥もせず、棚から一本の重厚なボトルを引き抜いた。

「金の話じゃねぇ。あんたがどれだけの『毒』を飲み干す覚悟があるかって話だ。復讐ってのは、相手を地獄に送った後、その空いた穴を自分の人生で埋める作業だからな」

彼は重厚なロックグラスに氷を落とし、琥珀色の液体を注ぐ。

カラン、という氷の音が、まるで処刑の合図のように静かな店内に響き渡った。

「……さあ、注文を聞こうか。あんたが探しているその『ゴミ』の名前と、そいつをどう『掃除』してほしいのかをな」

アリエルの射抜くような視線が女性を捉える。

女性は震える唇を噛み締め、似顔絵の「自分に似た女性」――奪われた姉の面影を見つめながら、その名を口にしようとしていた。

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