139.【地下の葬列:鉄の棺桶】
暗い通路を駆け抜けるイーグルの背後に、数十人の足音が重く響く。
「逃がすな! 肩を負傷している、深追いしろ!」
ギルド兵たちの怒号が壁に反響し、クロスボウの矢が空を切ってイーグルの頬をかすめる。だが、追う側は気づいていない。自分たちが「狩る側」から「狩られる側」へと変わっていることに。
イーグルはある曲がり角で急停止し、壁の影に身を潜めた。手には小さなリモコンスイッチがある。
「……ようこそ。ここが終着駅だ」
先頭の兵士が、通路に張られた髪の毛よりも細い鋼線に足を掛けた。
その瞬間、イーグルが仕掛けていた【指向性対人爆薬】が起動する。
――ドォォォォォン!!
爆発の衝撃と共に、数千個の鋼鉄製ボールベアリングが、扇状の殺傷圏内に解き放たれた。
「ぎゃあああああああッ!?」
先頭の数名が、盾も鎧も貫通され、一瞬にして肉塊へと変わる。狭い通路において、逃げ場のない散弾は文字通り死神の鎌だった。
「ひっ、何だ!? 魔法か!? 何が起きたんだ!」
後方の兵士たちがパニックに陥り、足を止める。だが、イーグルの「掃除」はまだ始まったばかりだ。
混乱する兵士たちが後退しようとした足元で、別のトラップが作動する。
イーグルがリモコンのスイッチを押し込んだ。
――ズ、ドォォォン! ズドドォォン!
天井と壁に仕掛けられていた小型爆薬が連鎖的に炸裂し、通路を瓦礫で封鎖していく。逃げ道を失い、瓦礫に押し潰され、生き残った者たちも土煙の中で視界を奪われた。
「見えない! 誰か、光を……ぐはっ!」
暗視ゴーグルを装着したイーグルにとって、この土煙と闇は最高の狩場だった。
彼は無機質な動きで瓦礫の山を越え、混乱する兵士たちの間を縫うように移動する。
――プスッ、プスッ、プスッ。
消音器越しに吐き出される一弾一弾が、確実に残党の命を奪っていく。
鎧の隙間、喉元、後頭部。
クロスボウに矢を番える暇も、剣を抜く余裕も与えない。
わずか数分。
数十人の増援で溢れていた通路は、今や静まり返り、火薬の臭いと血の匂いだけが立ち込めていた。
生存者はゼロ。ギルドが誇る精鋭たちは、魔法の詠唱一つ満足に唱えられぬまま、近代兵器の合理性の前に「鉄の棺桶」へと閉じ込められた。
イーグルは熱源探知で周囲に動くものがいないことを確認し、ライフルのマガジンを交換した。左肩の傷がズキリと痛むが、アドレナリンがそれを麻痺させている。
「……残るは最下層。黒幕の顔を拝みに行くか」
彼は瓦礫の隙間を抜け、エルフの若者たちが囚われている「魔導抽出炉」がある、地下最深部への階段を下り始めた。




