137.【地下の掃除:無音の断罪】
地下ダンジョンの入り口は、エルフの里の地下深くへと続く、湿った闇に包まれていた。
イーグルはバックパックから消音器付きの拳銃を抜き出し、暗視ゴーグルを装着する。視界は瞬時に、無機質な緑色の濃淡へと切り替わった。
「さて、害獣駆除を始めようか」
彼は足音を完全に消し、闇に溶け込む。
通路の曲がり角、松明の明かりを頼りに談笑していた二人の私兵は、自分たちの死を悟る暇さえなかった。
――プスッ、プスッ。
空気を切り裂く小さな排気音。二人の眉間に、正確に鉛の塊が撃ち込まれる。崩れ落ちる死体が床に当たる前に、イーグルはその背中を支えて音もなく横たえた。
イーグルは前進しながら、バックパックから極細のワイヤーと、掌に収まるサイズの指向性爆薬を取り出した。
「追っ手の足を止めるのは、基本中の基本だ」
彼は曲がり角の死角や、天井の梁に巧妙にトラップを仕掛けていく。ただ殺すためではない。パニックを引き起こし、敵の指揮系統を物理的に分断するための布石だ。
闇の中から時折響く、乾いた銃声。
「何だ!? どこから攻撃された!?」
「ひっ、あ、アイツ、目が見えてるのか!?」
パニックに陥り、手当たり次第に魔法を放つ私兵たちを、イーグルは冷徹に捕捉し、一人ずつ確実に「掃除」していった。
だが、中層階に差し掛かった時、イーグルの【不運の予兆】が激しく火花を散らした。
「――ッ!」
直感に従い、即座に横へ跳ぶ。その刹那、彼がいた場所を不可視の衝撃波が通り抜け、石壁を粉砕した。
闇の奥から現れたのは、他の私兵とは明らかに雰囲気が違う、銀の甲冑を纏った男だ。
「……無詠唱か」
イーグルが低く呟く。魔法使いの弱点は詠唱の隙にある。だが、目の前の男は、予備動作なしに高密度の衝撃魔法を放ってみせた。
「鼠が紛れ込んだと聞いたが……魔法を使わぬ異端か。その程度の小細工、私の前では無意味だ」
男が再び手をかざす。イーグルは遮蔽物に飛び込んだが、続く無詠唱の連撃――鋭い氷の礫が、彼の左肩を深く切り裂いた。
「くっ……」
血が流れ、左腕に鋭い痛みが走る。この世界の「常識」である詠唱時間を計算に入れていたイーグルにとって、無詠唱魔法は銃の速射に近い脅威だった。暗視ゴーグルの視界も、男が放つ強い魔光によって乱され始める。
「逃げるか? それとも、その鉄の玩具で私の首を狙ってみるか?」
男が冷笑を浮かべ、次の魔法を練る。
イーグルは壁に背を預け、荒い呼吸を整えた。左肩の傷は深いが、骨は無事だ。彼は不敵に口角を上げる。
「……いいぜ。魔法に『待ち時間』がないってんなら……こっちも、少しばかり戦い方のギアを上げるだけだ」
イーグルはバックパックのサイドポケットから、対魔法使い用の【特殊閃光音響弾】を手に取った。




