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134.【森の晩餐:鉄鍋と氷の微睡み】

霧の向こうから、不気味な軋み音と共に何かが弾ける音が響いた。

イーグルが事前に仕掛けていたワイヤー・トラップだ。ただの鋼線ではない。フェネカが「魔力回路の盗聴」の技術を応用し、魔力に反応して発火するのではなく、「物理的な衝撃」だけで信管を叩く原始的な炸裂弾が仕込まれていた。

「……掛かったな」

爆発の衝撃で、霧の中に隠れていた【ミスト・ストーカー】の巨躯が露わになる。

逃げようとする個体の急所――心臓部である赤黒い蔓の束を、イーグルのライフルが正確に撃ち抜いた。

断末魔はなく、ただ大量の葉が散る音だけがして、静寂が戻る。

「……魔法も使わずに、あの隠蔽スキルを持つ魔獣を追い詰め、仕留めるなんて。本当に、あなたは何者なんですか?」

エーシャが呆然と呟く中、イーグルは既にナイフを抜き、鮮やかな手つきで解体を始めていた。

「ただの『何でも屋』だ。……ほら、素材だ。鑑定しろ」

エーシャは慌てて鑑定を始める。

「心臓部の蔓は良質な薬草。そしてこの球根は……確かに可食部です。ですが、アクが強く、適切な下処理をしなければ毒にもなるはずですが……」

「そのために俺がいる」

森の奥。イーグルは大きな岩の窪みを見つけると、手早く拠点を設営した。

当然、火は使わない。彼はバックパックから、魔法石の廃熱を利用した小型の【加熱プレート】――これもまたフェネカ製の「魔導具」――を取り出した。

「火は出さないが、熱は出る。これなら酸欠も、敵に位置を知らせる心配もない。まぁ……、熱源感知とかされたらバレるけどな。」

イーグルはミスト・ストーカーの球根を薄くスライスし、保存食の干し肉と共に鉄鍋に放り込んだ。球根から出る水分がスープとなり、独特のハーブのような香りが立ち込める。

「……良い、匂い」

「食え。Aランクの魔法使い様には、口に合うか分からんがな」

差し出された木皿を、エーシャは恐る恐る口に運んだ。

一口食べた瞬間、彼女の瞳が大きく開かれた。

「……っ!? 美味しい……。球根の苦味が、お肉の塩気と混ざって、すごく濃厚です……!」

彼女にとって、野営の食事とは、冷えた保存食を魔法で温め直すだけの「義務」だった。だが、目の前の男は、さっきまで自分たちを殺そうとした化け物を、その場で極上の料理に変えてみせた。

「人生も、戦闘も、料理も同じだ。目の前にあるカードをどう組み合わせるか。……お前は魔法という最強のカードを持っているが、それを『どう使うか』が抜けている」

イーグルの言葉は厳しかったが、その横顔には、昼間の戦闘時のような刺すような殺気はなかった。

エーシャは熱いスープを飲み干し、少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。

「……私、あなたのこと、ただの野蛮な戦士だと思っていました。謝ります」

「気にするな。……俺も、お前が火を放って森を消し飛ばさなかったことには感謝してる」

イーグルは皮肉げに笑うと、背負っていたバックパックを枕に横になった。

時計塔の鐘も聞こえない、暗い森の底。

エーシャは、初めて信頼できる背中を見つけた安堵感に包まれながら、静かに眠りについた。


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