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133.【深海の洗礼:狂った探知と鉄の瞳】

西の街道が途絶え、巨木が空を覆い尽くす「深海の森」の境界。

足を踏み入れた途端、陽光は完全に遮断され、周囲は濃密で粘り気のある銀色の霧に包まれた。

「……っ、何ですか、この霧は。魔力が……乱されている?」

エーシャが顔をしかめ、杖を掲げる。

Aランク魔法使いとしての直感が、周囲に満ちる異質な殺気を捉えていた。彼女は広域探知魔法を展開しようとしたが、術式が霧に触れた瞬間に霧散し、反響が乱反射して脳内をかき乱す。

「動くな。魔法も一旦止めろ。お前の『眼』は今、敵に情報を流しているだけだ」

背後からイーグルの冷徹な声が響く。彼はフェネカ特製のバックパックから、鈍く光る無機質なゴーグルを取り出し、装着した。フェネカが「元の世界」の技術を魔法で再現した試作魔導具の一つだ。

「……イーグル様、あなたも魔法を使うのでは? さっき、微かな魔力が……」

「俺の中にも魔力はある。だが、この世界こっちの感覚は、俺の戦い方には少しばかりまどろっこしくてな。頼るのは最後でいい」

イーグルは、魔力そのものを攻撃に転換するのではなく、フェネカ製の魔導具を起動するための「電池」として最小限に流し込む。

彼が見ている世界は、エーシャのものとは全く異なっていた。霧に含まれる魔力をフィルタリングし、生物の熱源だけを浮かび上がらせるサーマル視界。さらにイーグルの【不運の予兆】が、霧の奥から伸びる不可視の触手の軌道を、赤黒い線として描き出していた。

「左前方、三時方向、そして真上。……『根』が来てるぞ」

イーグルがバックパックに括り付けていた長銃身のライフルを抜き放つ。

「見えないのに、どうやって……! それに、あの霧は魔力そのものを喰らう性質が……」

「『見よう』とするから騙されるんだよ。奴らは植物だ。魔力を撒き餌にして、お前みたいな高密度の魔力保持者を釣るのが専門らしい」

イーグルは、エーシャの探知魔法が「虚無」と告げた霧の深淵へ、迷わず引き金を引いた。

――ドォォォォン!!

重厚な火薬の爆音。直後、霧の奥で何かが激しく悶える音が響き、樹上から巨大な緑の塊が落下した。

ステルススキルを持つ植物系魔獣【ミスト・ストーカー】。霧に同化して獲物を絞め殺す厄介な相手だが、イーグルの「物理弾頭」にはその隠蔽は通用しない。

「……植物系の魔物? これ、これだけの巨体なら、心臓部のつるは貴重な薬草に、球根部分は食用になります! でも、どうやって急所を一撃で……」

「ただの勘だ。……残りは二体だ。エーシャ、素材が惜しいならあまり派手にやるな。それと……森の中だ、火魔法(火の気)は使うなよ。一気に酸欠になるか、森全体を敵に回すことになる」

「わ、わかっています! 魔法使いとしての基本ですッ!」

エーシャは顔を赤くしながらも、杖を短く持ち替えてイーグルの背中にピタリとついた。

密閉された森の中で火を放てば、自分たちもただでは済まない。彼女は氷結と風の魔法に意識を集中させ、イーグルの「熱源探知」が捉えきれない、足元から忍び寄る細い触手を正確に凍りつかせた。

爆音と硝煙。霧を切り裂く鉄の弾丸と、冷静な氷の援護。

「深海の森」の入り口で、エーシャは魔法という奇跡を「効率」の一部として組み込む、イーグルの冷徹なまでの生存戦略をその目に焼き付けていた。



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