130.【二重生活:血と図鑑と琥珀色の煙】
「――なるほどな。想像以上に腐りきってやがる」
閉店後のBAR【プラチナ】。イーグルは、バッカスから吐かせたギルドの汚職相関図をカウンターに広げた。
現ギルドマスターは元Sランク冒険者。領主と結託し、街の利権を食い物にしている。職員10人のうち、まともに機能しているのは、エルフの女エーシャ、若手の男ラルグ、猫獣人の女カルカの3人のみだ。
「正義感で動けば蜂の巣をつつくことになる。まずは『信頼』を買い占める。昼は冒険者、夜はBAR。二重生活の始まりだ」
翌朝、イーグルたちは市場で頑丈な背負子と大量の麻袋を買い込み、北の渓谷へと足を踏み入れた。
目的は「オーク30体討伐」。だが、そこには報告にない上位種「オークジェネラル」が三体も君臨していた。
「……トリトス、アリエル。掃除を始めるぞ」
イーグルの合図と共に、三つの「暴力」が解き放たれた。
アリエルが先陣を切る。特訓で磨き上げた【純粋打撃】を乗せた拳が、オークの肉体を鎧ごとひしゃげさせ、骨の砕ける不快な音が渓谷に響く。
「どけ。その首、背負子に入れるスペースを空けなきゃならねぇんだ」
巨体のオークが、アリエルの一撃で紙細工のように吹き飛ぶ。
その横を、死神のような速度でトリトスが抜ける。魔力を介さぬ【破砕拳】がジェネラルの喉を正確に貫き、巨躯が膝をつく前にその首を素手でねじ切った。
「……ほう、この世界の魔獣の構造も、ようやく理解できてきた。脆いものだ」
後方では、イーグルが【リボルバー】を冷徹に操作していた。
逃げようとする個体の脚を確実に撃ち抜き、アリエルたちが撃ち漏らした隙を正確な弾丸で埋めていく。
「【不運の予兆】……。お前らが次にどっちへ転ぶか、俺にはもう見えている」
爆音と共に、最後の一体の頭部が弾け飛んだ。
ローズたちが周辺で薬草を採取し、自作の【薬草図鑑】へ登録を終える頃には、渓谷には30体以上の「首なし」の死体と、血に濡れた大量の麻袋が転がっていた。
■ステータス・アップデート
イーグル(Lv.15): 命中精度向上。スキル【運命の残弾】(最後の一発の威力が倍増)習得。
アリエル(Lv.18): 筋力増強。スキル【金剛の構え】(物理防御の大幅上昇)習得。
トリトス(Lv.20): 格闘能力上昇。スキル【破砕拳】(装甲無視ダメージ)習得。
ローズ(Lv.12): 知力上昇。スキル【構造解析】(弱点看破)習得。
フェネカ(Lv.11): 器用さ上昇。スキル【魔力回路の盗聴】(魔法の予兆検知)習得。
ヴァレス(Lv.14): 精神力上昇。スキル【傀儡の糸】(有効射程拡大)習得。
アリス(Lv.10): MP総量増加。精密射撃の安定性向上。
ギルドへ戻り、血の滴る麻袋をカウンターへ叩きつけると、エーシャは顔を青くして絶句した。上位種討伐の上乗せを含め、報酬は異例の金貨48枚。
イーグルは無関心に金を受け取り、店へと向かった。
夜。店に灯りがともる。
「……いらっしゃい」
カウンターの中で、オーナー兼店長のアリエルがぶっきらぼうに客を迎える。昼の戦場での狂気を封印し、ベストを纏ったその姿には一流のバーテンダーの風格が漂う。
「アリエル様、あちらの席へ追加のオーダーです。ヴァレス様、サービングをお願いしますッス!」
アリスはキビキビと動き回りながらフロアを回していく。
だが、この店にいるイーグルは、接客には一切加わらない。
彼はカウンターの一番端、影の落ちる特等席に腰を下ろし、琥珀色のグラスを静かに揺らしていた。ジッポの重厚な音を立ててタバコに火を点ける。
「……イーグル様、あちらの職員、またイーグル様のことを見てますよ」
アリスが小声で告げるが、イーグルは紫煙を天井へ吐き出すだけだ。
「俺はただの常連で、しがない『何でも屋』だ。店を回すのは、アリエルたちの仕事だろ」
煙の向こう側、イーグルは店を訪れたエーシャ、ラルグ、カルカの三人を静かに見極める。
彼らがいつ、ギルドの闇に耐えかねて、カウンターの端に座る「何でも屋」に救いを求めてくるか。その瞬間を、彼は冷徹な観察者の瞳で待っていた。




