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128.【監査と皮肉:不条理のテイスティング】

重厚なオークの扉が、荒々しく蹴り開けられた。

踏み込んできたのは、冷徹な法執行官を思わせる紺碧のローブを纏った三人組。中央に立つ監査官バッカスは、潔癖症のように鼻を鳴らし、店内に漂う酒と硝煙の残香に顔をしかめた。

「スラムの掃き溜めに相応しい汚らしさだな。……ここが、ギルドの帳簿を汚している不透明な資産の出所か」

イーグルはカウンターの中にではなく、客席側にいた。

磨き上げられた止まり木に腰を下ろし、泥のついた指先で琥珀色の液体が揺れるグラスを弄んでいる。彼は顔を上げることもなく、バッカスの存在を「品定め」するように、その一挙手一投足を視線の端で値踏みした。

「……あいにく、当店に『ゴミの収集依頼』を出した覚えはないんですがね」

イーグルは静かにグラスを傾け、喉を鳴らす。その所作には、数日間の地獄の訓練を経て手に入れた、肉体的な「余裕」が溢れていた。装備に頼らずとも、今の彼にはバッカスの急所が透けて見えている。

「無礼な! 貴様らがブラックマーケットで動かした金貨の出所、そして無認可の魔導兵器……。すべて没収の上、ギルド監獄で洗いざらい吐いてもらう!」

「ボクの傑作を『無認可』なんて言葉で片付けないでくれるかな、役人さん」

カウンターの端で、フェネカが泥だらけの尻尾をゆらりと揺らし、銀色の多機能拳銃【ステラ】のバレルを布で磨き上げた。

「法律ってのは、技術に追いつけない無能が書く『言い訳のリスト』のことだろ? ボクたちの道具を理解する知能が、あんたのその薄っぺらな頭に詰まっているとは思えないけどね」

「貴様ら……ッ! 抵抗するつもりか!」

バッカスが背後の護衛に合図を送ろうとした瞬間、ローズがタブレットを一切見ることなく、空中に指を滑らせた。

「あら、抵抗? 滅相もないわ。ただ、あなたが昨夜、ギルドの公金を使い込んで通いつめていた私営カジノの負けデータ……今、この瞬間にギルド本部の掲示板にアップロードすることもできるけれど、どうする?」

ローズの瞳は、泥に塗れてなお、冷徹な電子の光を宿していた。バッカスの顔から急速に血の気が引いていく。

「……無粋だな」

店の奥、暗がりに座るトリトスが、琥珀色のグラスを揺らした。

「貴様らが守っているのは『理』ではない。ただの『既得権益』という名の虚像だ。……ヴァレス、この不機嫌な客人に、相応しい一杯を差し上げて差し上げろ」

「かしこまりましたわ、トリトス様」

ヴァレスが優雅な所作で、濁った灰色の液体をショットグラスに注ぎ、バッカスの前に置いた。

「当店特製の『不条理アブサード』です。中身は……先ほどまで私たちがいた裏庭の泥水と、ほんの少しの真実を混ぜたもの。今のあなた方には、最高級のブランデーよりもお似合いかと」

「ふざけるな……! 捕らえろ! 全員だ!」

バッカスが叫ぶ。だが、護衛が剣に手をかけるより早く、アリエルがカウンターを飛び越え、目にも留らぬ速さでバッカスの喉元に一本の「伝票」を突きつけた。

「掃除代と、不法侵入の慰謝料だ。……銀貨50枚。今すぐ払って帰るか、それともこの店の地下で『新メニュー』の材料になるか。選ばせてやるぜ、役人さんよ」

イーグルは最後まで椅子から立ち上がることはなかった。ただ、飲み干したグラスをカランとカウンターに置き、鈍く光る【リボルバー】をその横に並べた。

「……さて。監査はこれで終わりか? それとも、本格的な『実地調査』を希望するか?」

バッカスは、絶望的な格差を悟り、震える手で財布を投げ出した。

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