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127.【泥と血潮:ステータスの再構築】

「――甘いぞ、フェネカ! 尻尾を意識しすぎて重心が浮いている!」

アリエルの怒声が、夜明け前の裏庭に響く。装備をすべて剥ぎ取られた面々は、己の肉体という「剥き出しの牙」だけで、互いの限界を削り合っていた。

「ハァ、ハァ……ボクにこんな、筋肉バカみたいな真似……ッ!」

フェネカは泥まみれになりながら、アリエルの放つ重圧を必死に捌いていた。だが、アリエルの拳がフェネカの横腹を掠める。

「黙って動け! 道具が壊れた時、頼れるのは自分の四肢だけだ!」

「フェネカ、予測で動くな。生存本能で動け」

イーグル自身も、自身の低い運(LUK:1)を呪う暇もなく、アリエルの猛攻を紙一重でかわし続ける。不運という「不条理」をねじ伏せるには、システム上の数値を凌駕する反射速度を身体に叩き込むしかない。

一方、ローズとアリスは、ヴァレスの指導のもと、視覚を封じられた「純粋魔力による索敵」の訓練に挑んでいた。

「ローズ、タブレットに頼らずとも、大気の揺らぎで情報の断片は掴めますわ。アリス、あなたは出力を抑えるのではなく、その膨大なMPを一本の細い糸にするイメージです」

ヴァレスの紫糸が、鋭い鞭となって二人を襲う。

「いたっ……! 今のは電子的デジタルな反応じゃなかったわ……」

ローズは泥に膝をつきながらも、脳内の演算回路を「機械」から「感覚」へと接続し直していく。アリスは顔を真っ赤にしながら、暴走しかけるMPを必死に一箇所へ留めていた。

そして、庭の隅で誰よりも激しく泥に塗れていたのは、元魔王トリトスだった。

彼は自身の圧倒的な「格」を封印し、あえてこの世界の低レベルな身体能力のみで、巨大な岩石を素手で砕き続けていた。

「……ふむ。魔力に頼れば一瞬だが、肉の軋みを経て放つ一撃こそ、この世界の『物理法則』への正しき干渉。……面白い」

かつて神すら見下ろした瞳が、今はただの「一人の武人」として研ぎ澄まされていく。トリトスが泥を払い、無造作に拳を突き出すと、魔力を介さぬ衝撃波が空気を裂いた。

■特訓の結果:ステータスの「密度」

数日間の地獄を経て、彼らの脳内にシステムメッセージが非情かつ着実に響く。


『――ステータス上昇――』

■イーグル:スピード+5、スキル【不運の予兆】習得

■アリエル:パワー+3、HP+20

■ローズ:MP+15、スキル【魔力聴覚・初級】習得

■ヴァレス:【自己研鑽】により全能力+1

■フェネカ:スピード+4、スキル【緊急回避】習得

■アリス:MP制御精度向上、LV+1(LV8)

■トリトス:パワー+5、スキル【純粋打撃】習得


「……はは、ボクの綺麗な毛並みがボロボロだよ。でも、確かに……世界が少し遅く見えるね」

フェネカが泥を拭いながら、自身の感覚が鋭敏になったことを自覚する。トリトスもまた、拳の傷を顧みず満足げに頷いた。

「……ようやく、異邦人の顔つきから『狩人』の顔つきになったな。装備に魂を預ける段階は終わった。これより、その肉体の上に再び至高の鋼を纏うがいい」

その時。

店の扉を叩く、激しい音がした。これまでの「客」とは違う、金属的で、統制された響き。

「――冒険者ギルド特別監査官だ。BAR【プラチナ】、開門せよ。違法な魔導兵器の所持、および不当な資金移動の疑いがある」

ミラを通じた「交渉」を無視し、ギルドの硬派な一派がついに牙を剥いた。

だが、今の彼らは、数日前までの「装備頼みの素人」ではない。

「……アリエル。店を開けろ」

イーグルが、泥のついた顔で冷たく命じた。

「『客』を、地獄へ招待してやろうぜ」


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