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126.【経済の洗浄と血肉の規律】

街の喧騒から隔絶された深夜の【BAR PLATINUM】。バックバーの琥珀色のボトルが、ローズの投影する青白いホログラムに照らされている。

「……近頃、スラムの『プラチナ』に関わると、騎士団すら消えるという噂がギルドで独り歩きしているわ」

カウンターの片隅で、ミラが震える指でカクテルグラスの脚をなぞる。

「ギルドマスターはあなたたちを『管理不能な特異点』と見なし始めている。それに、ブラックマーケットでの異様な額の換金記録……。財務当局が動き出せば、この店は一晩で包囲されるわよ」

「――だからこそ、この『ツケ』の払い時なんだよ」

イーグルが、数枚の精緻な書類をミラの前に滑らせた。

「帳簿だ。ローズが過去数年分の仕入れと売上の推移を『捏造』、いや『最適化』した。

この店は今日から、他都市の投資家グループから融資を受けた、健全な高級酒場として機能する」

「ええ。ブラックマーケットの金は、段階的に複数のダミー商会を経由して『希少食材の仕入れ代金』としてロンダリングするわ」

ローズが淡々とキーを叩く。

「ミラ、あなたにはギルド側の窓口になってもらう。一部の金は『あなたの功績による極秘依頼の報奨金』としてギルド経由で流して。正当な報酬としてね。……協力費は、あなたの口座に直接振り込むわ」

ミラが息を呑む。それは彼女を、名実ともにBAR【プラチナ】の「共犯者」へと作り変える宣告だった。

「財務の洗浄は終わった。……次は、お前らの根性だ」

アリエルの低い声が店内に響くと、それまで新装備に浮かれていた面々の背筋が凍りついた。

「フェネカ、ローズ。お前らの『魔改造』は認める。だが、今のままじゃその機械を壊された瞬間、お前らはただの肉塊だ。アリス、あんたも銃を捨てた途端にオーガの落ちこぼれに逆戻りだ。違うか?」

アリエルは、カウンターの上に「装備なし」での訓練メニューを叩きつけた。

「明日から、全員全装備を封印して地獄を見せる。イーグル、俺、トリトス、ヴァレス……全員参加だ。格闘戦、魔導回路を使わない魔力感知、そして基礎体力の底上げ。例外は作らねぇ」

「……えっ、ボクも? 勘弁してよ、ボクは技術職なんだから。現場で殴り合うなんて無粋だよ」

フェネカが耳を伏せて抗議しようとしたが、イーグルの冷徹な瞳がそれを遮った。

「『道具』は腕を延長するものであって、腕そのものじゃない。……フェネカ、お前の技術を殺させたくないから言ってるんだ。この世界で生き残るプロは、裸になっても牙を隠し持っているもんだぜ。俺も、今のステータスじゃこの銃は重すぎる」

イーグルは最後の一本となったタバコを灰皿に押し付け、ミラに背を向けた。

「ミラ。ギルドにはこう伝えな。――『プラチナは街のうみを吸い上げる。お前らが手を出せない汚物バグの処理代行だ。邪魔をしなければ、ギルドの評価も上がる』と」

翌朝、スラムの裏庭。

最新鋭の兵器をすべて没収され、泥にまみれてアリエルの拳を避ける「スペシャリスト」たちの絶叫が、アストラル・ノアの夜明けを切り裂いた。

「あ痛っ! ボクの尻尾が泥だらけだ……! 鬼! 悪魔! バーテンダー!」

フェネカの悲鳴を、イーグルの冷たい号令がかき消した。

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