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125.【胃袋の契約と新米の直談判】

フェネカの工房を襲った「錆びた牙」を返り討ちにし、一行は機材と共にBAR【プラチナ】へと帰還した。フェネカが強引に倉庫へ荷物を運び込む中、店の主であるアリエルが仁王立ちで待ち構えていた。

「おい、キツネ。誰がそこを仕事場にしていいっつった? そこは俺の貴重な酒を寝かせる大事な場所だ。勝手にガラクタを持ち込むんじゃねぇ!」

アリエルの野太く通る声が店内に響く。

フェネカは耳を伏せつつも、図太く笑いながら二本の尻尾を揺らした。

「いいじゃないか、マスター。ボクがいればこの店の厨房機器も警備も最新鋭だ。それに……」

フェネカの鼻がピクリと動く。厨房から漂う、これまで嗅いだこともない強烈に食欲をそそる肉の香りに、彼の耳がピンと立った。

「……こりゃ何の匂いだ?」

「あぁ? 腹が減ったから俺の賄いを作ってたんだよ。食いたきゃ食え、ただし家賃はきっちり技術で払ってもらうからな!」

ドカッ、とテーブルに置かれたのは、鉄板の上で弾ける肉汁と特製ソースが絡み合う、厚切りのステーキだった。

フェネカが一口運んだ瞬間、その琥珀色の瞳が見開かれた。異世界のスパイスとアリエルの【火力調整】による完璧な火入れ。スラムの粗末な食事で生きてきた彼にとって、それは魂を揺さぶる衝撃だった。

「……決めたよ。家賃としてボクの腕は全部ここに預ける。三食、これを保証してくれるならね!」

「ケッ、食い意地の張った野郎だ。いいだろう、契約成立だ。精々、俺の店を頑丈に作り替えな!」

こうして、BAR【プラチナ】に「技術開発部門」が正式に誕生した。

その夜、営業が一段落した頃。アリスは銀色の銃身を持つ【ステラ】を胸に抱き、カウンターに座るトリトス、そしてグラスを磨くアリエルの前へ進み出た。

その瞳には、かつての怯えは微塵もなく、確固たる意志の炎が宿っていた。

「……トリトス様、アリエル様。お願いがあるッス。いえ、あります!」

アリスの声は震えていなかった。

「私を、次の依頼から『実戦要員』として同行させてほしいッス! 私はもう、ただのウェイトレスじゃない。ローズ様とフェネカさんに頂いたこの力を使って、皆さんの背中を預けられる存在になりたいんです!」

アリエルは手を止め、鋭い視線でアリスを睨み据えた。

「あんた、自分が何を言ってるか分かってんのか? 戦場じゃミス一つで死ぬんだよ。俺らは遊びでやってんじゃねぇんだ」

「分かってるッス。でも、解析魔法とこの銃があれば、私は敵の弱点を見抜き、皆さんの道を切り拓ける。……拾ってもらった恩を、私は力で返したいッス!」

トリトスは静かにグラスを置き、深紅の瞳で少女を射抜くように見つめた後、ふっと口角を上げた。

「……ふむ、随分とマシな面構えになったな。よかろう、アリエル。この小娘の覚悟、一度試してやる価値はあるのではないか?」

アリエルは鼻を鳴らし、乱暴にアリスの頭を撫で回した。

「ハッ、死にたがりの馬鹿がまた一人増えたか! いいだろう、連れてってやるよ。その代わり、足手まといになったら即座にクビだ。……覚悟しな!」

「――はいっ! ありがとうございますッス!」

アリスの元気な返事が、夜のBARに響き渡った。



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