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120.【新顔と初陣:リザードマンの護衛依頼】

ヴァレスによる「地獄の教育」を経て、アリスはBAR【プラチナ】の一員としての第一歩を踏み出した。とはいえ、32kgまで落ちた体重と栄養失調は一朝一夕には治らない。

「アリス、あんたは体が戻るまでローズの横で端末の操作を覚えな。接客はその後だ」

アリエルの指示で、アリスはカウンターの端、ローズの「電子要塞」の隣でウェイトレス兼サポートとしての研修を始めることになった。

カラン、とドアベルが鳴る。

入ってきたのは、この界隈では珍しい落ち着いた雰囲気を持つリザードマンの男だった。背負った杖と聖印が、彼が回復と支援に特化した「ヒーラー」であることを示している。

「……すまない、ここなら腕の立つ者がいると聞いたのだが」

リザードマンの冒険者が、困惑した様子でカウンターに座った。アリスがぎこちない手つきで、アリエル特製の滋養強壮茶を差し出す。

「……いらっしゃいませ……ッス。……じゃなくて、いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」

「ああ、ありがとう。……実は、急ぎの採取依頼を受けたのだが、パーティーの予定が合わず一人になってしまってね。道中には危険な魔物も出る。護衛を探しているんだが、ギルドの酒場はガラが悪くて困っていたんだ」

彼の名はパーク。レベルは30前後といったところか。

ローズの隣で端末を叩いていたアリスが、素早く情報を共有する。

「ローズさん、彼が狙っている薬草の自生地、最近レベル35帯の魔物が入り込んでるッス。一人じゃ確実に死ぬッスよ」

その言葉を聞き、イーグルがライフルのボルトを弄びながらニヤリと笑った。丁度、新調した装備の「慣らし運転」が必要な時期だ。

「いいぜ、トカゲの旦那。俺たちが付き合ってやる。……ただし、依頼料兼護衛料として銀貨5枚。妥当なラインだろ?」

パークは少し驚いたが、イーグルから漂うプロの殺気、そして後ろに控えるトリトスとヴァレスの圧倒的な「格」を感じ取り、迷わず銀貨を差し出した。

「助かる! 銀貨5枚でこの面々が動いてくれるなら安いものだ」

「……ついでだ、条件がある」

イーグルが紫煙を吐き出しながら、パークに指を突きつける。

「無事に戻れたら、この店を仲間に広めろ。ここは最高の酒と飯、それに『何でも屋』がいる場所だってな。忘れるなよ」

数時間後、一行は街の外の森へと足を踏み入れ、押し寄せる魔物を次々と掃討していった。

「そこ、右から来るわ」

店に残ったローズの通信を受け、アリスが解析魔法で敵の位置を微調整する。

「――了解だ」

イーグルが【魔導狙撃銃・黒曜】のトリガーを引く。音もなく放たれた魔力弾が、森の奥に潜んでいた魔物の頭部を正確に貫通した。

「……な、なんだ今の威力は! 詠唱もなしに!?」

パークが目を見開く中、さらにヴァレスが【銀糸の魔鞭】をしなやかに振るい、接近してきた残党を切り刻む。

「……フン、これしき。練習台にもならぬな」

トリトスが【魔導長剣】の鞘を払うこともなく、放たれた威圧だけで大型の魔物を退散させた。

戦闘の合間、一行はパークから野草の知識を教わりながら、効率よく採取を進めていく。

「これは『銀の露草』。魔力回復剤の原料になります」

「ほう、これがな。ヴァレス、そっちの株も回収しておけ」


一息つく際、イーグルはアリエルから持たされた「BAR特製・厚切り肉サンド」を全員に配った。一口齧れば、溢れる肉汁とパンの旨みが口内に広がり、戦いによる飢餓感が心地よく緩和されていく。

「う、美味い……! こんなに豪華な携帯食は初めてだ!」

パークも感動に震えながら、夢中でサンドイッチを頬張った。

一連の任務を終えた瞬間、三人の脳内に確かな成長の感覚とシステムメッセージが響く。

『――レベルアップ完了:イーグル Lv.10 / ヴァレス Lv.10 / トリトス Lv.11――』

『――追加スキル習得:【鑑定】【採取】――』

これまではローズの端末頼りだった情報の読み取りや、素材の選別が自力で可能となったのだ。

パークは、自分が雇ったのが単なる「護衛」ではなく、凄まじい速度でこの世界の理を吸収していく「怪物たち」であることに、戦慄しながらも確信を深めていた。

(このBAR……とんでもない場所だ。街に戻ったら、絶対に知り合い全員に教えなくては……!)

新装備の試運転、レベルアップ、そして新スキルの獲得。初陣の結果は、文句なしの満点だった。


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