表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/157

119.【磨き上げ:地獄のメイド教育】

「……よろしいですわ。そこまでおっしゃるなら、わたくしがこの泥鼠を、宝石に変えて差し上げます」

ヴァレスが冷たく微笑むと、店内の空気が凍りついた。彼女の手がアリスの細い手首を掴み、問答無用で二階の居住区へと引き立てていく。

「ちょ、ちょっと待つッス! どこへ連れて行くッスかー!」

「無駄な抵抗はおやめなさい。……まずはその、鼻をつく下水の臭いを徹底的に落としますわよ」


■第一工程:洗浄と除菌

二階の浴室。ヴァレスは市場で調達した最高級の薬用石鹸と、自身の魔力を編み込んだ温水を惜しみなく投入した。

「痛いッス! 皮が剥けるッスよ!」

「甘えを捨てなさい。毛穴の一つ一つに詰まったスラムの汚れが、わたくしのプライドを逆撫でしていますのよ。……ローズ、例の魔導除菌ミストを!」

「はいはい、準備万端よ。アリス、目をつぶってなさい」

ローズが持ち込んだ特製ミストが噴霧され、アリスの肌は元の白さを取り戻し、水色の髪はシルクのような輝きを帯び始めた。


■第二工程:肉体改造(賄い)

風呂上がりのアリスの前に、アリエルが無骨に一皿を置いた。

「教育には体力がいる。全部食え」

出されたのは、晶狼の肉を極限まで煮込み、栄養価を濃縮した特製コンソメと、新鮮な野菜のサラダ。飢えていたアリスは、ヴァレスに姿勢を矯正されながら、涙目でそれを完食した。32kgしかなかった身体に、わずかながら「生気」が宿る。


■第三工程:制服と作法

最後に用意されたのは、ヴァレスが市場で厳選した布地をローズが裁断し、魔導ミシンで縫い上げた「プラチナ特製メイド服」だった。

落ち着いたダークネイビーのドレスに、雪のような白のエプロン。オーガの角を邪魔しないよう、カチューシャの形状も特注されている。

「背筋を伸ばしなさい。指先は揃えて。言葉の語尾から『ッス』を削ぎ落とせと言っているでしょう?」

「無理ッス……じゃなかった、無理です……わ、ヴァレスさん……」

「『様』と呼びなさい。もう一度!」

数時間後。

一階のカウンターで酒を飲んでいたイーグルとトリトスの前に、ゆっくりと階段を下りてくる影があった。

「……お待たせいたしましたわ。これが、わたくしの解答です」

ヴァレスが誇らしげに一歩下がると、そこにいたのは、さっきまでの泥塗れの少女ではなかった。

汚れを落とした水色の髪は美しくポニーテールで跳ね、オレンジ色の瞳は意志の強さを宿して輝いている。サイズを合わせた制服が、まだ細いながらも品格を感じさせるシルエットを形作っていた。

「……アリス・アストラル、ッス。……じゃなくて、アリスです。……本日より、この店でお世話になります……わ」

頬を赤らめ、ぎこちなくスカートの端を摘んでお辞儀をするアリス。

トリトスは満足げに頷き、イーグルはタバコの煙をゆっくりと吐き出した。

「……いい面構えになったな。ヴァレス、あんたの仕事にケチはつけねぇよ」

「当然ですわ。これでも妥協したくらいですもの」

BAR【プラチナ】に、最年少の「毒」を持ったウェイトレスが誕生した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ