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118.【情報屋:橋の下のアリス】

カラン、と力ない音が店内に響いた。

扉の隙間から滑り込んできたのは、驚くほど細く、今にも夜の闇に溶けて消えてしまいそうな影だった。

水色の髪を高い位置でポニーテールに結び、額からは二本の鋭い漆黒の角が突き出している。

オーガ族――だが、その体躯は身長146cm、体重32kgと、種族の常識を疑うほど痩せ細っていた。深刻な栄養失調で顔色は青白く、耳に並んだ七つのピアスだけが、主人の意地を象徴するようにチリリと硬質な音を立てる。

「……ここが、騎士団をハメたっていう新入りの店ッスか。随分と、高級な匂いがするッスよ……」

ふらついた足取りでカウンターへ歩み寄った彼女の視線が、奥の席に座るトリトスで止まった。

その瞬間、アリスのオレンジ色の瞳が恐怖に染まる。

トリトスから放たれる圧倒的な威圧感と、魔族としての強固な「格」。それを同族の、それも魔法使いを迫害する「オーガの上位種」と見間違えた彼女は、身を竦めてガタガタと震え出した。

「……ッ、オーガの……上位種ッスか……!? 魔法が使える私は、また気味悪がられて殺されるッスか……!? 差別されるのはもう、お腹いっぱいッスよ……!」

アリスは頭を抱え、床に蹲った。魔法が使える変異種として部族から疎まれ、孤独の中でスラムへ逃げ込んだ記憶。

自分を拒絶した同胞への恐怖が、衰弱した彼女の精神を掻き乱す。

「……。案ずるな、小娘。我は貴様の出自など興味はない。ましてや、その程度の魔力で差別するなど、時間の無駄だ」

トリトスが静かに、だが絶対的な否定を告げた。その言葉に毒気を感じなかったのか、アリスは呆然と顔を上げた。トリトスは、その痩せ細った少女の絶望的な有様をしばらく眺めていたが、ふとアリエルの方を向いた。

「……アリエル。この小娘、なかなかに鋭い魔力を秘めている。……どうだ、この店でウェイトレスとして雇うというのは」

「あぁ?」

アリエルは手を休め、不審げにアリスを見下ろした。

「雇うって言っても、うちは慈善事業じゃねぇぞ。……おい、嬢ちゃん。あんた、何ができるんだ?」

「何が……ッスか。……情報の収集と整理、それから……。下水の魔力溜まりで培った、隠密魔法と解析魔法くらいッスよ……」

震えながらも、アリスは必死に自身の価値を絞り出した。だが、その提案にヴァレスが冷ややかな声を上げる。

「……反対ですわ。そのような小汚い泥鼠を、この誇り高きBAR【プラチナ】に置くなど、ブランドに傷が付きますわ。接客業というものを、もっと真剣に考えていただきたいものです」

ヴァレスの紫色の瞳が、アリスを拒絶するように射抜いた。

イーグルはそれらの言い分を、タバコを燻らせながら静かに聞いていた。ゆっくりと紫煙を吐き出し、彼は薄暗い天井を仰ぐ。

「……まあ、反対、賛成、どっちでもいい。だがな、こいつの『情報の鮮度』は本物だ。……まずは、その泥を落としてからだ。ヴァレス、あんたの教育であの小娘をこのBARに相応しい宝石に磨き上げてみな。……それができないって言うなら、あんたのプロ意識もそれまでだぜ」

「……っ。イーグル殿、わたくしへの挑発ですの?」

ヴァレスが目を細める中、BAR【プラチナ】に新たな波乱の種が芽吹き始めていた。

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