116.【先行投資:鋼の換金と特注の獲物】
開店したばかりの【BAR PLATINUM】の地下室には、剥ぎ取られたばかりの「銀鋼騎士団」の重装鎧や魔導回路が山積みにされていた。
「これだけの『銀鋼』、正規ルートで売れば足がつくわね。……でも、この街の『下層市場』なら、ただの良質な素材として洗浄できるわ」
ローズがタブレットを叩き、数時間後。店を訪れた闇商人の手によって、山のような鉄屑は、ずっしりと重い数袋の金貨へと姿を変えた。ギルドからの報奨金と合わせ、彼らの手元にはこの世界の貴族すら目を見張る「軍資金」が揃った。
「さて、プロが商売道具に妥協してちゃ、笑われるからな」
イーグルの合図で、五人は再び街へと散った。今度は「奪う」ためではなく、「整える」ために。
■イーグル:魔導精密機械の融合
イーグルが訪れたのは、スラムの外れにある偏屈な老鍛冶屋と、マッドサイエンティストと噂される錬金術師の工房だった。
「ライフルのボルトをこの『高純度魔石』でコーティングしろ。薬室には魔力圧縮用の錬金回路を刻め」
無理難題を突きつけるイーグルに、職人たちは悲鳴を上げたが、積まれた金貨がその口を封じた。
【魔導狙撃銃・黒曜】: 弾丸に魔力を充填し、着弾時に「爆発」や「貫通」の特性を付与。
【晶狼の牙(改)】: 晶狼の牙を鋼で補強。魔力分解の残滓を宿し、魔法障壁を切り裂く。
【小型円盾】: 左腕に装着。表面に衝撃変換の術式を刻んだ、緊急防御用。
■アリエル:拳と鉄の洗礼
アリエルが求めたのは、繊細な酒作りと、無骨な破壊を両立させる装備だった。
【重厚なガントレット】: パワー22の衝撃を分散させ、自身の拳を保護。指先は繊細に動くよう特注。
【黒金のメイス】: 酔っ払いを「静かに」させるための重質量兵器。魔導回路により、打撃時に一時的に質量を倍加させる。
■ローズ:情報端末のオーバーホール
彼女が向かったのは、街のジャンクショップ。ゴミの山から異世界の回路を拾い上げ、自身の「相棒」を修理する。
【強化タブレット】: 異世界の「魔導演算素子」を組み込み、解析速度が3倍に上昇。
【投げナイフ(電磁仕様)】&【スタンガン】: 本来の護身用。魔力を電気信号へ変換し、相手の神経系を直接麻痺させる。
■トリトス:王の杖、王の剣
元魔王が求めたのは、もはや「制限」に抗うための道具ではなかった。
【魔導長剣】: ロングソードの刀身に、高位魔導師の杖の機能を内蔵。剣筋に沿って魔力を増幅させ、剣自体が「触媒」として機能する。
■ヴァレス:しなやかな拒絶
ヴァレスは自身の「守護」の意志を攻撃へ転じるための武器を選んだ。
【銀糸の魔鞭】: 魔力の伝導率が極めて高い極細の糸を編み込んだ鞭。彼女の紫の魔力を通せば、物理的な切断力と魔法的な拘束力を同時に発揮する。
日没。
再び【BAR PLATINUM】に集まった五人の姿は、数日前とは見違えるような「殺気」を帯びていた。ステータスの低さを補って余りある、プロ専用の「特注品」がその手に握られている。
「……完璧ね。これでこの街の『不条理』を、いつでも叩き潰せるわ」
ローズが満足げにタブレットを閉じ、店内の照明を落とした。
「さて、装備は万全だ。試運転が必要だが……まずはBARをBARらしくするか。なっ? アリエル」
イーグルが新しいライフルのボルトを引き、冷たい金属音を響かせる。
「クックッ……。違いねぇ。こんなにいいバーテンダーがいるんだ、しけた安酒なんて出せるかよ」
アリエルがガントレットを外し、不敵に笑う。
異世界の夜を買い取るための「本格営業」。
その幕が、静かに上がろうとしていた。




