113.【下水道の王:効率的な「掃除」】
アストラル・ノアの地下、湿った空気と廃液の臭いが立ち込める巨大な回廊。
街を支える「血管」であるはずの場所は、今や巨大な鼠や泥の魔物が跋扈する魔窟と化していた。
「……ひどい臭い。この世界の公衆衛生はどうなってるの?」
ローズが鼻を押さえながら、タブレットを操作する。青白いホログラムが、暗闇の中に立体的な「裏の地図」を描き出していく。
「現在、Fランク指定区域の入口から200メートル地点。……この先に反応があるわよ。一、二……全部で十二体」
『――【鑑定・簡易】発動:大毒鼠――』
『弱点:火。特性:低圧の放電攻撃』
「『ネズミ掃除』にゃ火が一番だろ」
アリエルが、市場で仕入れてきた安酒を霧吹きのように口に含んで吹き出した。
そこへ、指先で弾いた火種を重ねる。
ボォォォォォン!!
『――スキル【火力調整】発動:火炎放射――』
狭い通路を埋め尽くした炎が、大毒鼠たちを焼き払う。逃げ惑う魔物を、イーグルのライフルが正確に撃ち抜いた。
「……アリエル、火を使いすぎるな。酸素が薄くなる。……ローズ、例の『座標』はここか?」
イーグルが壁に刻まれた奇妙な紋章を指差した。
「ええ。この真上がギルド提携の商会の倉庫よ。……おかしいわね。補修記録には『異常なし』とあるのに、この壁だけが新しく作り替えられている……」
ローズがタブレットを壁に押し当て、非接触で内部データを読み取る。
「……。物理的な壁ではないな。これは『認識阻害』の魔法だ」
トリトスが前に出て、その壁に手を触れた。
「小賢しい真似を……。この程度の術式、我にとっては不快なノイズに過ぎぬ」
『――スキル【魔力分解】発動――』
パキィ、とガラスが割れるような音が響き、壁の一部が消滅した。現れたのは、本来の下水道には存在しないはずの「隠し扉」だった。
「……皆様、来ますわ!」
ヴァレスが叫ぶ。彼女は凛とした構えを取った。その掌には紫色の魔力が、鋭い棘のように凝縮されている。
隠し扉の奥から現れたのは、魔物ではない。ギルドの紋章が入った重装鎧を身にまとい、殺気を放つ「正規の守衛」たちだった。
「Fランクのゴミどもが、入り込んではいけない場所に迷い込んだようだな。……ここは『死の清掃区画』だ。お前たちの死体は、そのまま泥の下に埋めてやる」
守衛の一人が、巨大なメイスを構えて突進してくる。
「……。なるほどな、受付の姉ちゃんが言ってた『事務作業』ってのは、これの口封じのことか」
イーグルが、冷たくなったタバコを吐き捨て、ナイフを抜いた。
その背後で、アリエルが市場で調達しておいた「丈夫な大型の麻袋」五枚を肩から降ろし、ニヤリと笑う。
「アリエル、正面を止めろ。ヴァレス、背後を守れ。……汚い仕事の時間だ。……こいつらから、たっぷり『超過勤務手当』を頂こうじゃねぇか。袋の数は、ちょうど一人一枚分だ」
レベル6の新人たちが、ギルドの闇である「正規兵」を相手に、最底辺のドブ板の下で真の初陣を飾る。




