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112.【受付嬢の算盤とプロの観察眼】

ギルドの重厚な扉が跳ね上がった衝撃音に、騒がしかった大広間が水を打ったように静まり返った。

立ち並ぶ円卓、安酒の臭いを撒き散らす冒険者たち。その数百という視線が、場違いな五人の「ルーキー」に突き刺さる。

「……何の騒ぎ? 扉を壊したら修理代を報酬から差し引くわよ」

受付カウンターで眼鏡を光らせる知的な女性——受付嬢のミラが、不機嫌そうにペンを置いた。

イーグルは荒くれ者たちが気圧されて道を開ける中を悠然と歩き、カウンターにドカリと腰を下ろすと、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。

「修理代は今から受ける仕事の取り分で精算チェックしておけ。……名はイーグル。ライセンスの発行と、手っ取り早く『街の仕組み』がわかる依頼を寄越せ」

ミラは事務的な手つきで、カウンターに埋め込まれた「測定の魔水晶」を差し出した。

「まずはステータスを。……この街では数字が法よ。無謀な新人が死ぬのを見るのは、事務作業が増えるから勘弁してほしいわね」

五人が次々と水晶に手を触れる。青白い光が走り、ローズのタブレットと同期した数値が空中に投影された。

『――平均レベル:6。最高ステータス:パワー22(アリエル)――』

一瞬の静寂の後、一人の冒険者が吹き出したのを合図に、ギルド内は嘲笑の渦に包まれた。

「おいおい、冗談だろ? レベル6の雑魚が偉そうに!」

「ネズミのケツでも追いかけてろ、お坊ちゃん方!」

ミラも冷淡な溜息をつき、茶色く汚れた数枚の依頼書を差し出した。

「平均レベル6……。

規定通り、あなたたちは『Fランク』からスタートよ。

この『下水道の害獣駆除』か『街の外壁磨き』のどちらかを選びなさい。規約上、それ以外のランクは許可できないわ」

イーグルは差し出された「下水道」の依頼書を指先で弄り、ローズに視線を送った。ローズはタブレットの画面をミラに見えない角度でイーグルに向け、短く頷く。

「……下水道、か。悪くない。街の血管を掃除すれば、どこに『詰まり』があるかよく見えるからな」

イーグルが不敵に口角を上げた。

その視線は、ミラの背後の棚に置かれた、特定の商会との不自然な癒着を暗示する「隠し色」の台帳を正確に捉えていた。

「おい、お嬢さん。……この街、上の方が綺麗な割に、えらく下水の臭いがこびりついてるじゃないか。……あんたらのギルドの奥の方からな」

ミラが微かに息を呑み、眼鏡の奥の瞳が揺れた。

「……何の話かしら。妄想を語る暇があるなら、早く現場へ行きなさい」

「ああ、そうさせてもらうぜ。……アリエル、行くぞ。汚い仕事(汚れ役)は俺たちの得意分野だ」

イーグルが依頼書をひったくるように受け取ると、背後の仲間に声をかけた。

「下水道掃除を最速で終わらせて、この街の『裏ルート』をマッピングする。……トリトス、あんたも『世界の淀み』を覗く準備はいいか?」

「……。既に始めている。水底の闇も、案外と多くの真実を語るものだ」

トリトスの黄金の瞳が、薄暗いギルドの奥を静かに見据える。

「さて、お立会いだ。」

イーグルが不敵に笑い、ギルドの連中を一瞥した。

「『数字』を信じて掃除を笑うか、俺たちが見つける『お釣り』に震えるか。……この街のツケの精算、まずはドブ板の下から始めさせてもらうぜ」

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