111.【各個撃破:世界の「価値」を査定する】
「……さて、ハコ(拠点)は整ったが、中身が空っぽだ。このままじゃ、明日にはバーボンの瓶を眺めながら野垂れ死にだぜ」
イーグルが空のポケットを叩きながら、最後の一本のタバコに火をつけた。
レベルが上がったことで、肉体は凄まじいエネルギーを要求している。
「一気に動くぞ。各自、専門分野でこの世界の『価値』を洗ってこい。日没までにここで合流だ。……仕事を始めるぞ」
■アリエル:市場調査と「相場」の把握
アリエルは、スラムと平民層を繋ぐ活気ある市場へと向かった。
彼は物売りの声を無視し、まずは「水」と「安酒」、そして「パン」の価格を執拗に確認して回る。
「……銅貨5枚で硬いパン一つ。銀貨1枚で並の食事と薄いエールか。金貨1枚あれば、この店を少しはマシな酒で満たせそうだ」
彼はさらに、両替商の軒先で金貨の純度と重さを盗み見た。
『――条件達成:スキル【相場眼】を習得しました――』
「なるほどな。この街の経済は『魔石』の流通量に依存している。……アリエル、お前ならこの市場を丸ごと飲み込めるか?」
彼は鏡のようなカウンターを磨く時のように、冷徹な目で市場の裏側を見定めていた。
■ローズ:三層区画の情報遊泳
ローズはタブレットを懐に隠し、街の「全層」をその足で歩き回った。
スラムでは酔客の愚痴に耳を貸し、市場では商人の台帳を盗み見、貴族層の端では衛兵の世間話を傍受する。
「……スラムの供給不足は、平民層の商人が裏で糸を引いてる。そしてその商人のパトロンは、あの時計塔に住む貴族……繋がったわ」
足と耳、そして時折タブレットで拾う微弱な魔導波。それらを統合し、彼女はこの街の腐敗の構造をマッピングしていく。
『――条件達成:スキル【広域傍受】を習得しました――』
「ネットがない世界なんて、情報の防壁がないのと同じね。人間をハッキングする方がよっぽど簡単だわ」
■トリトス:真理の探究と「上限」の確認
トリトスは街の北側にそびえ立つ、巨大な石造りの図書館を訪れていた。
「……ほう。この世界のスキルは『天賦』ではなく、行動の結果として付与されるのか。ならば、我々が異質なのは『経験値』の変換効率が異常だからか」
ボロボロの外套を羽織った男が、古びた魔導書を凄まじい速度でめくる姿に、司書たちは言葉を失う。
『――条件達成:スキル【魔導言語解読】を習得しました――』
「レベルによるステータスの向上幅……そしてスキルの合成法則。……我の知る魔術体系とは異なるが、攻略の糸口は見えた。この世界の『神』とやら、案外と底が浅いな」
■ヴァレス:自己研鑽の「盾」
一方、店内に残ったヴァレスは、一人で地獄のような基礎鍛錬に励んでいた。
「……はぁ、はぁ……! 1%の奇跡に頼っていては、トリトス様の盾は務まりませんわ!」
彼女はアリエルが残した重いガラクタを使い、優雅な令嬢としての顔を捨て、肉体を極限まで追い込んでいた。
『――条件達成:スキル【自己研鑽】を習得。ステータス:パワーが1上昇しました――』
「……筋肉が軋みますわ。ですが、これこそが『力』の証明。次は、何であっても防いでみせますわ」
その瞳には、かつての弱々しさは微塵もなかった。
■イーグル:鋼の鑑定と「戦力の最適化」
イーグルは火花の散る鍛冶屋通りで、並べられた武器を手に取っていた。
その重心、硬度、そして「魔力伝導率」を、軍人の経験則で冷徹に測っていく。
「……脆い。魔力を通すことばかり考えて、鋼としての強度がゴミだ」
『――条件達成:スキル【武器鑑定・初級】を習得しました――』
彼は店主に内緒で、自分のナイフの切れ味と現地の最高級の剣を比較する。
(……俺のライフルの弾丸なら、こいつらの鎧は紙同然だ。問題は、あの『魔導アーマー』とやらをブチ抜くための大火力をどう確保するかだな)
夕暮れ時、五人は再び「冒険者ギルド」の重厚な扉の前に集結した。
「……全員、やるべきことは済んだか?」
イーグルの問いに、四人が不敵な笑みで応える。
「市場の価値は把握した。金を稼ぐ準備はできている」(アリエル)
「街の『弱み』、もうサーバーごと抜かせてもらったわ」(ローズ)
「この世界の『ルール』を知った。……壊しがいがある」(トリトス)
「いつでも、どなたからでもお守りしますわ」(ヴァレス)
「よし。……まずはこの街の『ライセンス』を分取る。……一番手っ取り早くレベルが上がって、金になる『仕事』を寄越せと掛け合おうじゃねぇか」
イーグルが、ブーツの先で扉を力任せに蹴り飛ばした。
アストラル・ノア冒険者ギルド。
そこに、ステータスは低いが、世界の「裏側」を完全に把握した史上最悪のプロ集団が足を踏み入れた。




