忘霊
掲載日:2025/11/15
「どうか忘れないでください」
叶わぬ願いと知りながら そんなわがままがつい口に出る
一瞬を大切に生きるだなんて 当たり前だと人は言うけれど
その一瞬を無為に見過ごして 何もかも終わった後に 遅すぎる涙がこぼれる
「何もいらないよ」
遠くの空を眺めながら 誰かがあまりに軽やかにそう笑った いつかの夕焼け
それはきっと 胸に灯す何かを昨日に亡くしたから
それはきっと もう夢見る明日さえ失ったから
「何がほしい?」
ああ なんて なんて遅すぎた贖い
報いは今ここにある もうすぐ私は忘却になる
「どうか忘れないでください」
縋るように紡ぐ言葉は もう誰にも届かない
何を残せたか 数えようとして やっと自分が何も残さぬままに 今までを生きたことに気づく
私は何も残せなくて だから 命はにこりとも笑わない
私はもうすぐ忘却になる
寂しい心の残響を 抱きしめてせめて凍えぬように
「どうか忘れないでください」
ただ それだけ 誰にも届かぬ言葉が 冷たい風に散らされて 私はもうすぐ忘却になる
人が死ぬのは皆に忘れられたとき、というのは有名な言葉だ。でも私たちは、たくさんの人達をあまりに簡単に忘れ去ってしまう。
そうして忘れ去られる側に立ったとき、その忘却がどれほど冷たくおそろしいか初めて知るのだろう。




