追放宣言された聖女は、国ごと叩き潰して分からせる
「クリスティーナに告ぐ。貴様はこの国の聖女としての任を外し、永久国外追放とする!」
先程までアリアン王国の王宮内の研究所で魔法の研究をしていたはずの聖女クリスティーナは急遽、王室に呼び出されていた。
何の用かと思ったら、冷酷な目付きをしたアリアン・ユークリッド国王が頬杖を立てて王座にふんぞり返っていた。
「失礼ですが、何かの間違いでは?」
「馬鹿を言うな! 貴様は聖女のくせして研究所では黒魔術を研究していると聞いているぞ! そんな奴が王宮にいるなんて噂が国外に流出したらどう責任を取るつもりなんだ!」
「……はぁ、そうですか」
少々国王の態度に呆れ、虚ろな目をして返事をした。
ただ、ユークリッドの言っていることに間違いはなく、数週間前から黒魔術の研究中に研究所を爆破させたり、魔力暴走が発生しそうになったり……。
クリスティーナ自身も「そろそろお咎め喰らうかな?」と思っていたところだった。
「伝える事は以上だ。騎士団よ、此奴を捕えろ!」
すると、背後の柱の裏に隠れていた王国直属の騎士四人が刺股の様なものでクリスティーナを囲み、拘束した。
が、クリスティーナは妙に冷静沈着であった。
「さあ、此奴を北方の地へ……」
「この程度の拘束で私を捕えられたとでも?」
ユークリッドの言葉を遮って言った直後、クリスティーナの身体から黒色の閃光が瞬き、爆発したかの様に周囲の騎士たちが吹き飛んだ。
「なっ!? 貴様、何を……?」
クリスティーナはギロリとした目つきでユークリッドを睨み、嘲笑するかの様に言った。
「さっき自分で仰っていたでしょう。これが『黒魔術』ですよ」
「貴様ぁ……こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
怒りで顔が歪み、ギリギリと歯軋りをしたユークリッドは自身の護剣を手に取り、銀色に光る刀身を抜いて見せた。
すると王座を飛び出し、クリスティーナに斬りかかった。
「オラァァァァァァァ!!!」
裕福さと比例している醜い身体を揺らしながらドタドタとぎこちなく走ってくるユークリッドを見て、クリスティーナは不敵な笑みを浮かべた。
「もうちょっと足が速ければ、私に斬りかかれていたかもしれませんね」
クリスティーナはユークリッドの振るう刃が届く寸前にパチリと指を鳴らすと、ユークリッドは突然、床に叩きつけられた。
あまりの衝撃と自身の体重のせいで、肋骨が二、三本ほど折れる鈍い音がした。
「!?……ぐあぁぁぁ!」
「あら、いい音がしましたね。これは『超重力』という黒魔術で、対象の場の重力を十倍することが出来るのですよ」
まともに声が出せなくなったユークリッドをさらに嘲笑するように言う。
「あなたは多様な黒魔術を保有する聖女を敵に回したのです。その責任を負うのはあなただけではないのを承知してくださいね」
常にユークリッドの前では冷静沈着でいたが、黒魔術を根本から否定する姿に、今日ばかりはクリスティーナも怒りの念を抱いていた。
黒魔術は悪い面ばかり持ち合わせているわけではない。
使い方によっては、医療や農業などの様々な分野で活用できるのだ。
それなのに誰もその事を分かってくれない。魅力を伝えるために黒魔術の研究をしても、あくまで悪い方面での黒魔術の使い手だと恐れられ迫害される。
この国では聖女と偽って、安全な場所で研究を続けられる。
そう思ったのも束の間だった。
こうしてまた見つかって迫害の対象となった。どこへ行っても変わらない立場に、クリスティーナは既にうんざりしていた。
こうなってしまえば手段を選ぶ他なかった。
このまま素直に国を出て新たな土地で研究を続けるか、一生牢屋行きになるか……。
しかしクリスティーナはそう素直に現実を受け入れられなかった。
ならば、ここで抗ってみるのはどうだろうか?
クリスティーナにとってそれが唯一、しっくりくる答えだった。
「あなたは気づいていないかも知れませんので、早速見ていただきましょうか」
クリスティーナは王室の扉の方へ指を指す。
指先には魔力が集合し、黒い魔力球が形成されていた。
「バン」
銃の発砲音を真似て言った直後、風……いや、空間を切り裂くように魔力球が発射された。
数秒の間もなく魔力球は壁に衝突し、爆発した。
その爆発力は凄まじく王室のみならず、他の部屋も貫通し、外の景色が開けた。
「見てください、これがあなたの望んだ結末ですよ」
外に見えた景色、それは、まるで月が地球に衝突するかのような光景だった。
先程より何百倍、何千倍の大きさを誇る黒い魔力球が空を支配していた。
「これは私の研究の集大成です。私を騙し、私に騙されたあなたが見る、最後の光景となるでしょう」
超重力に押しつぶされたユークリッドは、呼吸が浅くなり、呻き声しか出せなくなった。
ただ目の前に広がる光景と自身の後悔を受け入れる他なかった。
「では、また地獄でお会いしましょう。さようなら、ユークリッド国王」
視線をユークリッドに向け軽く嗤った。赤く血走った目は何とも不愉快なものだった。
クリスティーナは、再び指を突き出し空へと向けた。
「バンッ!」
直後、一つの国が消滅した。
クリスティーナは黒い光の波に取り込まれるまで、不敵な笑みを浮かべていた。
魔術に染まった彼女はその日、悪魔となった。
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