3 ナギ、学校に行く 1
翌日は雨だった。青が隣のナギの家に行く。
「ばっちゃん、ナギを 誘いに来たよ」
しばらくして、オババの玄関のガラス扉が開く。
ナギがそのまま 外門をくぐろうとすると、青は慌てて声をかけた。
「その傘ささなきゃ」
「これくらいの雨、へっちゃらよ。人魚はいつも濡れていたし」
「でも ここは人間界だからな。傘をささなきゃ、その服がベチョベチョにになるよ」
「あっ、そっか」
ナギは納得という感じだ。人魚の世界とは違うのだ。
「そういえばナギって髪が短いよな。人魚って絵本にもあったけど、大体長いもんだよ。」
と、青が不思議に思っていたことを聞いた。
「カカ様が、このまま長い髪ならまずいと言って、カニさんに切ってもらったのよ」
「ふーん、そっか」
「だって生まれてから全然切っていなかったから、尾っぽまで髪があったわ」
「へえ、そんなにあったんだ。それじゃあ、切らなきゃ、学校へは行けないな」
ナギの今の姿は、肩までのシャギを入れたような短い髪に、今日は、ピンク色の小花模様のTシャツにジーンズのスカートをはいている。青は、アディダスのTシャツにカーゴパンツをはいている。。
昨日上った広いゆったりした階段を二人は降りて、坂道を少し上って住宅地を抜けると、畑が続いている。そこで、ナギは立ち止まり、これから六月にかけて咲く青色の花をじっと見ていた。
「うわあ、これ、お花って言うんでしょ?」
青は、花は花だけど……と心の中で思い、そういえば、母ちゃんがアヤメって言ってたなあと思い出した。
青は今 思い出したばかりだが、ナギにいい格好しようと、
「その花は アヤメって言うんだ」
と、言った。
ナギは感心した目で青を見た。
「青、ちょっとこの傘持ってて。きれいだからつんでくる」
「だ、だめだよ、そんなこことしたら。三田さんの畑のアヤメなんだから」
「三田さんって人のもの?」
「そう。人間界って、アヤメでも誰かのものって決まっているのね。人魚の世界では、家の中のもの以外はみんな自由に取れるわ。ワカメとか昆布とか」
「そうなんだ、でも人間界では家の中以外に、これみたいな畑やばっちゃんや俺の家にあるような庭も誰かのものって決まっているからね」
畑を過ぎてしばらく行くと、小川の橋に出た。青は欄干で素早く 殿様ガエルをポケットに入れた。
カエルが ゲロゲロ鳴いている。そしてその中に時折 ウシガエルの声も聞こえる。
「何この鳴き声?」
ナギは初めて聞くカエルの鳴き声に怯えたのか、青に飛びついてきた。
「カエルだよ」
青はポケットに入れていた殿様ガエル をナギの前に差し出した。
「怖い!」
ナギは青のTシャツを握りしめた。青はナギがトノサマガエルを怖かっているので、道にそっと放した。
横断歩道を渡ると、田んぼが続く坂道になる。青は田んぼの あぜ道に咲いている白詰草を見つけた。
「ナギ、これなら取ってもいいよ」
すると、ナギは、白詰草を三本とって青に渡した。
「これ 青にあげる」
「えっ?」
青は、さっき、ナギがアヤメを取ろうとしていたのは、そういうことだったのか?って考えると、何だか笑みがこぼれた。
ナギは、アヤメを三田さんの畑で見た時に、海の中にある一番きれいな青色に似ているなぁと思ったことと、青の名の名前の色の花なので、これまでの青へのお礼も兼ねてあげたくなったのだった。
青とナギが白詰草を見ていると、
「よう!、あれれ? 青の嫁さんか?」
というおどけた男の子の声がした。青のクラスメイトのゴンちゃんだった。ゴンちゃんとは、正田 毅という名前だった。
「よ、嫁さんだなんて、ゴンちゃん、言い過ぎだよ。この子は海原なぎさと言って、俺の隣の俺の隣のばっちゃんの孫だよ」
青は昨日オババの家で言われたことを間違えないようにゴンに話した。ナギは、青を見てクスッとした。それを見たゴンは、
「やっぱ、青の嫁さんだ!」
と大声で笑った。
その三人の様子を坂から降りてきた京子がじっと見ていたが、青はその時はまだ気づかなかった。




