9 七輪のさかな
青は庭でシロをなでていた。隣のナギが気になるが外門をくぐることもできずに。
庭でシロと遊んでいたら、青がナギのことが気になっていることがバレずにすむだろうと思ったから。
あれから、青は前のように気楽にナギに声をかけることができなくなった。
声をかけようとしたら、何だかくすぐったくなる。俺はどうしたんだ?と考えてもこれだ!という答えが出ない。でも、ナギと話をしたい。こんな思いの繰り返しだ。
しばらくすると、隣から魚を焼く匂いがしてきた。その匂いとともに、ナギの声がした。
「青! シロと遊んでたんだ。私、オババに言われて七輪で魚を焼いているの」
青は何だか焦げ臭い匂いがするので、ナギに言った。
「ナギ、魚!」
青はシロから手を離し、ナギのところに行くと、七輪から沢山の煙が出ていた。ナギは慌てて、魚をお皿に入れようとしたので、青は、
「まだ、片面しか焼けていないよ。魚は両面焼くんだよ」
と、お皿の魚を焼けていない方を七輪の金網においた。
「これで良し」
青が、額の汗を拭うと、ナギは、
「私、知らなかった。オババが魚を焼きなさいっていうから」
「そうか、ナギは生の魚しか食べたことがないんだな。焼き魚も美味しいぞ!」
と、青は笑顔で言った。ナギはまた失敗ってくじけるところを青に助けられたような気がした。
「ありがとう」
ナギはそういうと、七輪の魚に目を落とした。
「えっ、何が?」
青はぽかんとした。魚を裏返すなんて当たり前のことだ。
青はナギの胸中なんて知る由もなかったが、こうして、放課後もナギと話せて良かったと思った。
それにしても、俺は、ナギに遊ぼうって素直に誘いに行けば良かったのに、どうしてできなかったんだろうと思いを巡らせた。
じゅわじゅわと、七輪の魚がいい色に焼けていく。香ばしい匂いが辺りに満ちて、青の隣でナギが小さく「わぁ」と声を上げた。その顔は、初めて見るものに目を輝かせる子どものようで、青はなんだか胸が温かくなった。
「いい匂い! これ、本当に私が焼いたの?」
ナギが疑わしそうに問いかけるので、青は思わず吹き出した。
「もちろん、ナギが焼いたんだよ。俺はちょっと手伝っただけ」
「青が手伝ってくれなかったら、きっと真っ黒焦げだった」
ナギは少し照れたように笑い、青もつられて笑った。そんな二人の笑い声が、初夏の庭に響く。
しばらくして、魚はきつね色にこんがりと焼き上がった。青はトングで丁寧に魚を皿に乗せ、ナギに差し出した。
「ほら、熱いから気をつけて。できたては美味しいぞ」
「ありがとう!」
ナギは目を輝かせながら皿を受け取った。そして、魚の身を箸でつついて、小さく一口食べる。
その瞬間、ナギの目が大きく見開かれた。
「おいしい……! こんなに美味しいもの、初めて食べた!」
満面の笑みを浮かべるナギを見て、青は自分のことのように嬉しくなった。
「だろ? 焼き魚も美味しいんだ」
「うん、うん! オババにも食べさせてあげよう!」
ナギは残りの魚を大事そうに皿に盛り、家の中へと小走りで戻っていった。
一人残された青は、七輪の残り火を眺めながら、先ほどのナギの笑顔を思い出していた。
(あんなに喜んでくれるなら、もっと早く教えてあげればよかったな)
ふと、青は自分の手のひらを見た。魚を裏返した時、一瞬だけナギの手と触れ合った感触が、まだ微かに残っているような気がした。あのくすぐったい気持ちが、また胸の奥からじんわりと広がっていく。
「……変なの」
ポツリとつぶやくと、青は頭を軽く振った。
その日の夕食時、青は食卓に並んだ焼き魚を見て、思わず笑みがこぼれた。ナギが喜んでくれたことが、なぜか自分にとっても特別な出来事のように感じられたのだ。
「どうかしたの、青?」
隣に座っていたお母さんが不思議そうに尋ねる。
「ううん、なんでもない」
青は少し慌ててごまかした。
翌日、学校でナギと会うと、ナギはすぐに青のところに駆け寄ってきた。
「青! 昨日の魚、オババも美味しいって喜んでくれたの! ありがとう!」
満面の笑顔で感謝を伝えるナギに、青はまたあのくすぐったい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。
「そ、そうか。良かったな」
精一杯平静を装って答えるのがやっとだった。
それからというもの、ナギはたびたび青に話しかけてくるようになった。今日の夕飯は焼き魚だったとか、オババがまた魚を焼いてほしいと言っているとか、そんな他愛もない話ばかりだ。
青も、以前のようにためらうことなく、自然にナギと会話ができるようになっていた。
放課後、青はいつものように庭でシロと遊んでいた。ふと、隣の庭からナギの声が聞こえてくる。
「ねえ、青!」
振り返ると、ナギが外門のところに立って、にこにこしながら手を振っていた。
「今度、一緒に釣りに行かない? そしたら、もっと美味しい魚が焼けるかなって!」
青は目を丸くした。ナギからの、まさかの誘い。しかも、「一緒に」という言葉に、青の心臓はドキンと音を立てた。
あのくすぐったい気持ちが、今度はもっと強く、胸いっぱいに広がっていく。
青は、照れくさそうに笑いながら、大きく頷いた。
「うん、行こう!」
こうして、青はまた前のようにナギと遊べるようになった。
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この章は、AIとの共作です。




