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1 出会い





 「父ちゃん、俺、今日はかけっこで1番だったよー」

 西浜青が防波堤(ぼうはてい)の先っぽに立って、青い海の水平線の彼方に向って叫ぶ。

 青は美浜村の美浜小学校の5年生。となりには相棒のシロがいる。シロは紀州犬とスピッツの雑種の成犬だ。


 青のお父さんは漁師だったが、3年前の海難事故で帰らぬ人となった。

 だから、青は学校から帰ったらシロとともにこの防波堤に来て、学校であったことを天国のお父さんにいろいろ話すのだ。


 お父さんに話しかけていると、今日の場合は、お父さんが、青、よくやった!と言ってくれているように、太陽の光が水面の波にキラキラ光って、青のところまで光のプリズムのように届いた。


 給食で苦手なピーマンを全部食べたと報告した時は、カモメが、青とシロの頭上でクルクル飛び回ったりしていた。


 そんな時、青は何だか、父ちゃんが天国から話しかけてくれているような気がした。


 5月の午後の海は、それほど暑くもなくちょうどいい。青は毎日見ているのに、シロを放して、水平線の向こうを眺めていた。


 いつの間にか眠っていた。青はまだシロが自分の側に戻っていないことに気づいた。


「シロ!」

 青はシロを呼んでみる。どこに行ったんだ? 

アイツ。


 青は海を背にして浜辺を四方を見渡す。堤防(ていぼう)が浜辺を囲むように続いている。台風の時など、村に波が押し寄せないように食い止めるためだ。


 左側はキャンプ場になっている。右側は防波堤とともに岩場が存在する。岩場は子どもが一人入れるくらいの空洞になっていたりする。


 シロの尾っぽが見えた。また、あそこか。青はやれやれというようにシロの尾っぽを見た。シロは岩場に浜辺で拾った魚などを隠している。シロにしてみれば、穴を掘って骨などを隠す塩梅(あんばい)だ。


 青はシロの方に向って走って行った。

「見つけたぞ、シロ!」

 青が岩場の倉でシロを捕まえようとすると、


 えっ? 女の子!


 いつもはそんな岩場に女の子なんて近寄らないので、青は、びっくりした。

 女の子は青と同じくらいの背丈で、着替えを終えたようだ。でも、オレンジ色のスカートから出ていたのは、足ではなく、魚の尾っぽのようだった。


 人魚?


 青は目をこすった。すると、女の子のスカートから出ていた魚の尾っぽはみるみるうちに人間の素足に変わった。


 「誰? あんた?」

 青が我に返ると女の子が青をじっと見ていた。

 

「お、俺は怪しい者じゃないよ。シロ、俺の相棒がここに来ていたから連れて帰ろうと思って」

「ふーん、そう」

 女の子はシロを見て納得したようだ。青は、さっき見た女の子の尾っぽのことを言おうかどうかためらった。


 でも、女の子は、

「見てたの?」

 と、先に切り出した。


「何を?」

 青は尾っぽのことに触れて良いのか悪いのか分からなかった。


「そうよ。私は人魚よ。人間界に修行に来たの」

「でも、お前の母ちゃん厳しすぎないか? お前はまだ俺と同い年くらいだろう?」


「お前じゃなくて、私はナギ、ナギっていうの」

「ナギ? へんな名前だな。俺は青、西浜青

って言うんだ」


「アオ? 青も変な名前!」

「変かな? 俺はこの名前が好きだ。父ちゃんが海が大好きだから、海の色の青って俺につけてくれたんだ」


「そうなんだ。色の名前だから変だと思ったけど、そういうことだったんだ。素敵なトト様ね」


「トト様って父ちゃんのことか? 父ちゃんはもういないんだ」

 青はなぜだか、今出会ったばかりのナギにそう話してみたくなった、


「そうなんだ……。でも、人魚の間では、親が早く亡くなったら、見えないけれど、子どもの(そば)にちゃんと着いていてくれていると言われているわ」


「そうなのか?! ナギに話して良かったよ。ナギって名前もきっと何か意味があるんだな。」


 青は人魚の世界を想像してみるが、幼い頃にお母さんが読んでくれた人魚姫の話しか思い当たらなかった。

「ナギは修行に来たんだったな。行く宛はあるのか?」

「うん、オババの家で住みなさいってカカ様が言ってたわ」


「オババって言われても俺は知らないぞ」

「待って、この人」


 ナギは首に下げていた桜貝のペンダントを開いて、岩場の暗い壁にオババの映像を映映像を映した。


「それ桜貝なのにそんなこともできるのか? それに、この人、俺の隣に住むばっちゃんじゃないか!!」


「何だ、知り合いなんだ」

「村で変わり者って言われている。うちはばっちゃんの隣だから、母ちゃんとは仲が良いけど。待てよ、変わり者って、ばっちゃんが人魚族とつながりがあるからなのか? 母ちゃんがばっちゃんはあんまり人付き合いしていないって言ってた。でも、俺の父ちゃんが亡くなった時にばっちゃんがよくしてくれたんだ」


「ふーん。どうやら、良い人みたいね」

 ナギは安心したように一息ついた。青はノリでしゃべってしまったが、ナギが人間の青を少しも警戒していないことを不思議に思った。


「なあ、俺に人魚だということがバレたりして、俺がマスコミに言いふらすような人間ならどうしていたんだ?」


「青はそんなことしないよ。それに、マスコミって何?」

「テレビのニュースやワイドショーの人」

「テレビ?」

「そのうち分かる」


「私ね、カカさまから言われていたの。陸に上がったら、最初に私と同い年くらいの白い犬を連れた人間の男の子に出会うだろうって。その子にオババの家まで案内してもらいなさいって」


「へえ、人魚ってエスパーみたいだな」

「カカさまに言われたのはそれだけよ。修行なんだからあとは自分で何とかしなさいって」

「とんでもない母ちゃんだな」


 青としゃべりながら、ナギが人間の女の子になる身支度を終え、シロとともに気がつくと2人は、浜を囲む堤防を歩き終え、堤防から村に続く坂道まで来ていた。


 坂道のすぐ下に一軒家があり、その家のブロック塀にもたれて漁師の一平兄ちゃんが缶ジュースを飲んでいた。


 一平兄ちゃんは、浦部一平という。青が防波堤によく行くようになって知り合った20代の漁師だ。海で青を見かけると気さくに声をかけてくれる。一人っ子の青には頼もしいお兄ちゃんという感じだ。


「見かけない子だな。青、どこの子だ?」

 一平兄ちゃんはナギをジロジロ見る。ナギはさっきまでの元気がどこへ行ったのかうつむいて下を見ていた。青は、一平兄ちゃんにも本当のことは言えないなと考えた。


「あの、その、ばっちゃんの孫だって。今バスから降りたところだ。俺が迎えに行くように言われて……」

「あのばっちゃんに孫がいたのか? ニュースだなそれは!」


「一平兄ちゃん、このことはまだ誰にも言わないで。この子、恥ずかしがり屋だから」

「ふーん、いいけど。でも、その子、磯の香りがするなあ」

「わああー、さっき、ばっちゃん家に行く前に浜で水をかけて遊んだからだよ」


「それに荷物も持っていないな」

「それは、宅急便で先にばっちゃん家に届けたんだよ、きっと」


 青はスラスラと出てきた自分の言葉に驚いた。でも、ナギのためだ。


「そっか」

 一平兄ちゃんはこれで納得したようだ。青は人魚と一緒にいるのって大変だなあと内心で思った。


 一平兄ちゃんと二人が別れると、ナギが言った。

「青って中々やるのね。咄嗟(とっさ)にあんなこと、私なら言えないわ。でも、ありがとう」


 青はナギにそう言われて少し頬がほてった。それをぬぐうように青は顔に手をあて、

「俺だって必死だったんだ。ああいうしかないだろう。冷や汗かいたよ。そんなことより早くばっちゃんの家に急ごう。今度誰かに会ったら、俺、もう心臓が持たないや」


「ごめんね」

 ナギはそう言うと、青について行った。オババの家は、今度は平地の家並みを抜けて坂を少し登ったところにオババと青の家が並んだように二件建っていた。


「こ階段を登ったら、ばっちゃんの家と俺の家だ」

「へえ、ここね」

 二人は、広い緩やかな階段を登って行った。


読んでいただき、ありがとうございます。


今までは都会の子どもたちを描いていたので、


田舎の子どもたちを描いてみました。


人魚なのですが。


AIとの共作です。この章は私が書きました。

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