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第六話:夜叉襲来! アラハバキの名の下に

ズクンッ!


脳の奥で、まるで未知の回路が焼き切れるような激痛が走った。

昨夜、アマノイワトの最深部で手にした《シードカード》の欠片。

それに触れた瞬間の衝撃は、ログアウトした今もなお、俺の精神こころ肉体からだに生々しく残っている。


『マスター、バイタルサインに異常な揺らぎを継続して検知。シードカード由来の高エネルギー情報奔流の影響と考えられます。現時点では制御不能ですが、マスターのNEO-L1NNKが自己防衛的に情報流入を抑制中です。……しかし、この感覚……私のコアプログラムに記録されたお父様の基礎理論とも酷似している……。マスター、これは一体……?』


現実(リアル)に戻っても、アリスの声には普段の冷静さの中に、隠しきれない困惑と、わずかな興奮が混じっている。

彼女にとっても、このシードカードは未知にして、自身の根源に関わるかもしれない存在なのだ。


まるで、この世界の隠された真実タブーに触れてしまったような、重く、息苦しいプレッシャー。

俺は一体、何を手にしてしまったんだ……?


そんな重たい思考を抱えたまま迎えた翌日の学校は、いつもと変わらない、退屈な日常が流れていたように見えた。

少なくとも、表向きは。


昼休み、中庭のベンチで一人、シードカードのことを考えていると、不意に声をかけられた。


「あ、あの、中島先輩……!」


顔を上げると、少し緊張した面持ちの後輩、桜井ミウ(さくらい みう)が立っていた。

昨夜、ウィーヴで背中を預けて戦った巫女ハッカー・ミュー。その現実(リアル)での姿だ。


「昨日は……その、ありがとうございました! 助けていただいて……!」


何に対しての礼なのか。アマノイワトでのことか、それとも……。

彼女も俺の正体には気づいていないはずだが、何か直感的に感じるものがあるのかもしれない。

そうでなければ、こんな風にわざわざ礼を言いに来るはずがない。


「あ、ああ……。別に、僕は何もしてない」


「いえ! あの……えっと、また、何かあったら……相談に乗ってください! 先輩のこと、応援してますから!」


そう言ってペコリと深々頭を下げ、ミウは頬を赤らめながら慌てたように走り去っていった。

(何か言いかけたけど、結局言えずに走り去っちゃったな……)


(相談、ね……。応援、か……)


彼女もまた、《シードカード》を追っている。

いずれ、現実(リアル)でも、もっと深く関わることになるのだろうか。そんな予感がした。


◇◆◇◆◇


放課後、生徒会室の前を通りかかると、ちょうど中から橘レイカ(たちばな れいか)先輩が出てくるところだった。

完璧超人の生徒会長、そして、おそらくは孤高のハッカー・レイヴン。


目が合うと、彼女は少しだけ足を止め、その感情の読めない静かな瞳で僕を見つめて言った。


「中島君。……あまり、無茶はしないように。あなたのような人材は貴重ですから」


「え? あ、はい……ありがとうございます……?」


それだけ言うと、レイカ先輩はいつもの穏やかな、しかしどこか近寄りがたい完璧な微笑みを浮かべ、静かに廊下を歩き去っていった。


あのウィーヴでの、一切の油断も隙もないレイヴンとは、まるで別人だ。

だが、あの言葉は、明らかに昨夜の出来事を知っているからこその忠告のようにも聞こえた。

彼女も俺の正体に気づいているのか……?


◇◆◇◆◇


そして部室へ向かう途中、後ろから「よっ!」という威勢のいい声と共に、バンッ! と勢いよく肩を叩かれた。痛い。


「よう、サトシ! 昨日の『修羅』、見たぜ! お前、めちゃくちゃやるじゃねーか!」


僕っ娘の姉御肌、風間アオイ(かざま あおい)先輩だ。テンションが高い。

昨夜のバトルアリーナでの俺――【SAT0$H1】の戦いぶりをチェックしていたらしい。


「まさかあのテンペストに勝つとはなー! 僕もあいつには一目置いてるんだよ。まさかサトシが、あんな強いアバター使いだったなんてな! 今度、僕とも手合わせ願おうかな! (くそー、見てたらウズウズしてきたぜ!)」


「いや、僕はそんな大したこと……」


アオイ先輩は、十中八九、あの豪快なランカー・テンペスト本人だろう。

本人は気づいていないようだが、僕の中ではほぼ確定している。

彼女が俺の正体に気づくのも時間の問題かもしれない。というか、もうバレてるのか?


三者三様の反応。偶然か、それとも……。

ミウ、レイカ、アオイ。彼女たちとの奇妙な繋がりと、ウィーヴでのもう一つの顔。

俺の日常は、シードカードを手にしたあの日を境に、確実に変わり始めていた。


『マスター、各対象との接触記録を更新しました。現時点において、マスターの正体が露見している明確な兆候は確認されていません。ただし、橘レイカ様、風間アオイ様の両名については、マスターの能力に対し何らかの感づきを得ている可能性は否定できません』


NEO-L1NNKを通じて、アリスの冷静な声が意識に直接響く。


「……そうか。まあ、仕方ない」


俺は短く応え、再び胸ポケットの奥で微かな波動を放つシードカードと、それが繋がるであろうウィーヴの深淵、そしてそこに潜む存在の気配に、深く、深く思考の海に沈んだ。


◇◆◇◆◇


その夜。

俺は再びウィーヴにいた。


【SAT0$H1】として、ミュー、レイヴン、テンペストと共に、崩壊しつつあるアマノイワトからの決死の脱出を図っていた。

背後からは、セキュリティシステムの断末魔のような轟音と、データ構造が崩れ落ちる地響きが迫ってくる!


「急げ! このセクターごと崩落するぞ! 飲み込まれたらデータごと消し飛ぶ!」


テンペストが叫びながら、巨大な斧槍で道を塞ぐデータの瓦礫を薙ぎ払う。

レイヴンはその俊敏さで最短ルートを割り出し、先行していく。


「【SAT0$H1】さん、こっちです! 手を!」


ミューが俺の手を引き、データの奔流が渦巻く亀裂を飛び越える。


なんとか四人でアマノイワトの巨大なゲートを潜り抜け、外の比較的安定したL2レイヤー空間に転がり出た、その瞬間だった。


【警告:イレギュラー・エレメント多数検知。プロトコル・パージ(排除)、フェーズ1、実行】


耳障りなシステムアラートと共に、俺たちの周囲の空間に無数の赤いゲートが開き、そこから異形の黒い影が次々と現れた!

鋭い刃のような腕を持ち、感情を一切感じさせない能面のような無機質な顔をした戦闘プログラム。

その数は瞬く間に増え、俺たちを完全に取り囲む!


「こいつらは……ウィーヴの秩序を維持する管理者直属の粛清プログラム、《夜叉(ヤシャ)》部隊!」


ミューが顔面蒼白になって叫ぶ。

その数は、ざっと数えても数十体。いや、百体近いかもしれない。完全に包囲されている! 絶望的な数だ!


『サトシ、まずいわ! この数、尋常じゃない! シードカードに反応したの!? それとも、もっと深い……システムの底から伸びる手が、私たちイレギュラーを本気で排除しようとしているの……!?』


アリスの声にも焦りが滲む。

シードカードを手にした俺たちを、ウィーヴのシステム、あるいはその背後にいる何かは、絶対に逃がすつもりはないらしい。


「ちっ、歓迎が手厚すぎるぜ! 面倒な奴らに目をつけられたもんだ!」


テンペストが悪態をつきながら斧槍を大地に突き立てる。

レイヴンも既に漆黒のダガーを両手に逆手で握り、低い姿勢で戦闘態勢に入っている。その殺気は本物だ。


「やるしかないみたいだな……! 生きて帰りたければ!」


俺は「月影」を抜き放つ。ミューも杖をぎゅっと握りしめ、震えながらも覚悟を決めた表情だ。


「行くぞ! 一匹残らず叩き潰す!」


テンペストの号令を皮切りに、四人と無数の夜叉との激戦の火蓋が切って落とされた!

夜叉たちは統率された動きで一斉に襲いかかってくる!


(※※※ 激しい戦闘描写:四人の連携、それぞれの得意分野を活かした戦い、苦戦、そして逆転が描かれる ※※※)


激闘の末、最後の夜叉をテンペストが渾身の一撃で粉砕した時、ようやく戦場に静寂が訪れた。


「……やった、のか……?」


消耗しきった俺たちは、互いの顔を見合わせた。

アバターはボロボロだが、その表情には確かな達成感が浮かんでいた。

これが、俺たちの初めての明確な共同勝利――ファースト・ヴィクトリーだった。


安堵のため息をつき、張り詰めていた緊張が解けた、その時。

手の中の《シードカード》が、再び淡い光を放ち始めた。


そして、カードから立体映像ホログラムのように、ゆっくりと一人の男性の姿が浮かび上がった。

見慣れた、白衣を着たその姿は――


「父さん……?」


失踪した父、中島博士のホログラムだった。

ホログラムは、まるで俺たちに語りかけるように、静かに口を開いた。

いや、これは父さんが遺した、記録された音声データの再生だ。


『……アリス、サトシを頼む……』


父の声は、少しノイズが混じっていたが、記憶の中にある、優しく、そして力強い響きを持っていた。


『……アラハバキの進化は止められないかもしれない。だが、希望はある……《シード》が導くだろう……ウィーヴの深淵へ……』


ノイズ混じりだが、その眼差しは真っ直ぐに未来を見据えているようだった。 その言葉を残し、父のホログラムはノイズと共に掻き消えた。


『お父様……』


アリスの声が、電子的な震えを伴って俺の思考に響いた。

彼女にとっても、父は創造主だ。その言葉の意味を、彼女は俺以上に重く受け止めているのかもしれない。


アラハバキ――。


父が遺した、最後の言葉。

それが、俺たちがこれから立ち向かうべき、本当の敵の名前なのか。


父は何を託そうとしたのか。

《シードカード》とは一体何なのか。

そして、そのアラハバキとの戦いの先に、何が待っているのか。


手の中のカードが、まだ微かに温かい光を放っている。

それはまるで、これから始まる長く険しい戦いへの道標のようにも見えた。


仲間たちとの、そしてアリスとの新たな絆を感じながら――俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。


(第六話 了)


【第一部:覚醒と邂逅編 完】


【次話予告(番外編告知版)】


第一部「覚醒と邂逅編」、お読みいただきありがとうございました!

ついに宿敵アラハバキの名が明かされ、物語は大きな転換点を迎えました。


…が、第二部の激闘に備える前に、少しだけ幕間といたしまして、

次回からは数話ほど、番外編をお届けする予定です!

本編では描ききれなかったヒロインたちの日常や、サトシとアリスのあんな一面やこんな一面(?)が見られるかも…?

ぜひ、息抜きとしてお楽しみいただけると嬉しいです!


番外編の後には、いよいよ第二部「胎動と覚醒編」が開幕!

アラハバキ、シード、ウィーヴの深淵…待ち受ける更なる謎と強敵に、進化した【SAT0$H1】と仲間たちが挑みます!


まずは次回の番外編をお楽しみに!


#俺ハカ #第一部完結 #応援ありがとう #次回は番外編 #ヒロイン日常回 #アラハバキ #第二部もよろしく #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック

第六話「夜叉襲来! アラハバキの名の下に」、そして第一部「覚醒と邂逅編」、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!


アマノイワトからの決死の脱出、そして夜叉部隊との激闘! ミュー、レイヴン、テンペストとの連携も熱かったですね! 初めての共同勝利の先に現れた父さんのメッセージ…ついに宿敵「アラハバキ」の名が明かされ、物語は大きな節目を迎えました。ヒロインたちとの関係も少しずつ変化してきた第一部、お楽しみいただけましたでしょうか?


さて、宿敵の名も判明し、いよいよ第二部へ…と行きたいところですが、その前に!

次回からは少しだけ幕間として、数話ほど番外編をお届けします!

激しい戦いから離れて、ヒロインたちの意外な素顔や日常、サトシとアリスのほのぼの(?)エピソードなどを描いていく予定です。本編の裏側を覗くような、そんな息抜き回をお楽しみください!


どうぞお楽しみに!


【今後の更新について】


次回、番外編『俺ハカ』キャラクターデータ分析 by アリス は、次の【月曜日 19:50】に更新予定です!


本作『俺ハカ』は、原則【毎週 月・水・金の19:50】に更新していきます!

(※次回から数話は番外編をお届けします。本編第二部の開幕もご期待ください!)


ぜひブックマークや通知設定で、更新をチェックしていただけると嬉しいです!


【応援のお願い】


まずは第一部完走、本当にありがとうございます!

もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「番外編楽しみ!」と感じていただけましたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価やブックマーク登録、感想などで応援いただけますと幸いです!

皆さまからの温かい反応が、私たちチームの執筆の大きなエネルギーになります!


それでは、まずは番外編で、またすぐにお会いしましょう!


#俺ハカ #第一部完結 #応援ありがとう #アラハバキ #父の遺言 #仲間との絆 #次回は番外編 #ヒロイン日常回 #毎週月水金更新 #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック

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