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第四話:嵐を呼ぶ先輩! ランカー・テンペスト

「お、サトシー! ちょうどいいところに来た! これ見てみろよ、これ!」


放課後のPC部室。

ドアを開けた途端、快活すぎる声と大型ディスプレイの眩しい光に迎えられた。


声の主は、僕のすぐ隣の席で目をキラキラと輝かせている女子生徒――風間アオイ(かざま あおい)先輩。


肩までの長さの黒髪をラフなポニーテールにまとめ、制服のシャツの袖をまくり上げている。

画面には、派手なエフェクトが飛び交う中、二つのアバターが激しくぶつかり合うリプレイ映像が映し出されていた。


The Mind-Weaveマインド・ウィーヴで今一番ホットな対戦型エンターテイメント――バトルアリーナ『修羅』のものらしい。


「どうしたんスか、先輩。なんか凄い興奮してますけど」


「見てわかんない!? 『修羅』だよ、『修羅』! 最近マジでアツいんだって! 特にこの『テンペスト』ってランカー! 見ろよ、このパワー! このスキル! たまんねー!」


アオイ先輩は、映像の中の重装甲アバター――巨大な斧槍(ハルバード)を軽々と振り回す鎧武者――の活躍ぶりを熱っぽく語る。

その姿は、まるで自分の手柄のように誇らしげだ。


面倒見が良くて、それでいて少し(いや、かなり?)ガサツな、絵に描いたような姉御肌。

だが、そんな見た目とは裏腹に、彼女の一人称は「僕」だったりする。

そのギャップがまた、アオイ先輩らしいというか……。


「はあ……すごいっすね(棒)」


「だろ!? サトシもやってみろよ、『修羅』! 僕が見たところ、PCとか得意そうだし、こういうのも絶対イケるって! へへ、サトシ、意外と強かったりしてな! アカウント持ってないなら、今すぐ作ってやるぞ?」


グイグイと距離を詰めてくる先輩。

相変わらず圧が強い……。


「いや、僕は別に、そういうのは……」


バトルアリーナ、か。

正直に言って、さっきまで全く興味はなかった。


僕が今日、部室に来たのは、昨日《レイヴン()》とかいう謎のハッカーが落としていったのか、意図的に残していったのか判然としない暗号化データチップの解析のためだ。

高性能なワークステーションを使えば、より早く、安全に作業を進められる。

万が一、ウィーヴの監視プログラムに嗅ぎつけられても、学校のサーバー経由なら追跡を誤魔化せるかもしれない、という打算もあった。


もっとも、システムの奥深く……あの「見えざる管理者」の視線まで欺けるかは分からないが……。


だが――アオイ先輩の熱弁を聞いているうちに、少し考えが変わってきた。


(バトルアリーナ……ね。ああいう場所には、腕利きのハッカーや情報屋も流れ着くかもしれないな……)


ミューが口にした「シードカード」。

レイヴンが残した謎のデータチップ。

そして、父さんの失踪に関わる真相。


情報を集めるためには、あえて人目につく場所に顔を出してみるのも一つの手かもしれない。

それに、ハッカー【SAT0$H1】としての俺の実力が、ああいう純粋な戦闘スキルが問われる場でどこまで通用するのか、少し試してみたいという気持ちも、心の隅で確かに芽生え始めていた。


「……まあ、考えてみます」


「おう! やる気になったらいつでも言えよな! 僕が直々にスパルタ指導してやっから!」


ニカッと少年のような笑顔を見せるアオイ先輩に曖昧に頷きを返し、僕は空いているワークステーションへと向かった。

まずはデータチップの解析だ。


◇◆◇◆◇


その夜。

自室のベッドに横たわり、旧式のダイブギアを装着する。


「アリス、「接続(コネクト)」開始」


NEO-L1NNK(ネオリンク)接続、同期完了。生体認証クリア。マスター、いつでもダイブ可能です』


現実世界でのアリスは、いつも通りの冷静でシステマチックな合成音声だ。


「ああ、頼む。行き先は――バトルアリーナ『修羅』だ」


『……承知しました。バトルアリーナ『修羅』へ転送します。マスターにしては珍しい選択ですね。やはり、アオイ様の……』


「違うって言ってるだろ!」


アリスの軽口を遮り、僕は意識をウィーヴへと送り込んだ。


意識が一瞬、白い光に包まれ、次の瞬間には俺は漆黒のロングコートを纏ったアバター――SAT0$H1(サトシ)として、けたたましい歓声と腹に響く重低音が渦巻く空間に立っていた。


見上げるほどの巨大なドーム型スタジアム。

中央のバトルフィールドでは、光と爆発が絶え間なく明滅している。

観客席を埋め尽くす無数のアバターたちの熱気が、まるで物理的な圧力のように肌にビリビリと伝わってくる。


『ふふ、すごい熱気ね、サトシ。でも、この喧騒の裏で、冷徹な視線が私たちを値踏みしているような……そんな気配も少し感じるわ』

『ウィーヴの監視の目か、あるいは別の何かの……。ま、たまにはこういうのも悪くないんじゃないかしら? 息抜きも大事よ♪』


いつもの親しみやすいお姉さん口調のアリスが、俺の意識に直接語りかけてくる。

これが、ウィーヴにおける彼女のデフォルトモードだ。


「情報収集が主目的だ。それに、腕試しも兼ねてな」


『あらあら、腕試し? サトシったら、やっぱり昼間のアオイ先輩の話に影響されちゃったのね? もぉーw わかりやすいんだから♪』


「……別に、そういうわけじゃない!」


軽口を叩きながらも、アリスは既に『修羅』のシステムへアクセスし、必要な情報を俺に送ってきていた。


ルールは単純明快。

一対一のアバターバトル。装備やスキルの使用は自由。

対戦相手のコアプログラムを破壊するか、機能停止シャットダウンに追い込めば勝利となる。

勝てば賞金やアイテム(バトルカード)、ランキングポイントも貰えるらしい。


「とりあえず、一戦やってみるか。相手は誰でもいい」


『了解よ、サトシ。マッチングを開始するわ……あ、早速ヒットしたみたい。あらら……運がいいのか悪いのか……』


アリスが何か含みのある言い方をする。

フィールドへと転送されると同時に、対峙する相手のアバターデータがウィンドウに表示された。


【Ranker: テンペスト】


「……テンペストだと?」


昼間、アオイ先輩があれほど熱弁していた有名ランカーの名前だ。

まさか、初戦でいきなりランカーに当たるとは。なんという偶然……。


というか、『修羅』のマッチングシステム大丈夫なのか?


フィールドの反対側に、巨大な影がゆっくりと実体化する。

鈍色の重厚な鎧に身を固め、背丈の倍はあろうかという巨大な斧槍を軽々と肩に担いだ鎧武者。

アオイ先輩が見せてくれたリプレイ映像と寸分違わぬ姿だ。


その威容から放たれるプレッシャーは半端ではない。

観客席のボルテージも一気に上がった気がする。


『サトシ、気をつけて。このアバター、かなりのカスタムが施されてるわ。特に物理演算系の攻撃力が異常に高い。まともに食らったら、一撃でアバターごと吹き飛ばされるかも』


「分かってる。面白くなってきた」


俺は不敵に笑い、腰に提げた白銀の刀――アバターウェポン「月影(つきかげ)」の柄にそっと手をかける。


『Ready? ……Battle Start!』


スタジアム全体に響き渡るアナウンス!

その瞬間、テンペストが動いた!


その巨体からは想像もつかない俊敏さで地を蹴り、一直線に突っ込んでくる!

振り下ろされる斧槍は、まさに名前通りのテンペスト

空気をも断ち割るような轟音が響く!


「くっ!」


咄嗟にバックステップで回避!

だが、斧槍が叩きつけられたフィールドの床が砕け散り、衝撃波と共にデータの破片が嵐のように舞い上がる!

バランスを崩しかける!


「おらおらおら! どうした、避けるのが精一杯か! ハッカーさんよぉ!」


テンペストは、見た目通りの豪快な口調で叫びながら、嵐のような連続攻撃を繰り出してくる。

パワーもスピードも桁違いだ。


ウィーヴでの戦闘経験はそれなりにあるつもりだったが、純粋な戦闘アバターとしてはレベルが違う!

正面から斬り結んでも勝ち目はないだろう。


「アリス、援護を!」


『任せて、サトシ! フィールドの演算リソースに干渉開始!』

『テンペストの攻撃予測パターン、七十八パーセントまで解析完了! 回避ルートを示すわ! 彼の動き、かなり癖があるみたいね! 大振りで一撃は重いけど、攻撃後の硬直が若干長いとか、防御が少し甘くなる瞬間があるわ。まさにアオイ先輩っぽい!』


視界の端に、アリスが算出した最適な回避ルートが青いラインで表示される。

コンマ1秒単位で変動する予測ラインが、まるで未来予知のように彼の視界に表示される。

俺はそのラインに沿って動き、テンペストの猛攻を紙一重でかわし続ける。

まるでダンスを踊るように!


「ちょこまかと! うっとうしい奴だな!」


業を煮やしたのか、テンペストが斧槍を大きく振りかぶる。

全身の装甲が軋むほどのパワーチャージ! 大技が来る!


『サトシ、チャンスよ! 奴のモーションアルゴリズムにコンマ数秒の隙ができる! そこを突いて!』


「そこだ! 思考(イメージ)をカードに固定……「瞬速斬(クイック・スラッシュ)」、セット!」


俺は意識を集中し、思考インターフェースに半透明のスキルカード「瞬速斬」をイメージし、アクティブスロットにセットする!

月影を抜き放ち、鋭く叫んだ!


「――デプロイ!」


『スキルカード「瞬速斬(クイック・スラッシュ)」、実行します!』


アリスの復唱と共に、思考とほぼ同時に、目にも止まらぬ速度で放たれた鋭い一閃が走る!

テンペストの鎧のわずかな隙間――関節部分の駆動系をピンポイントで狙ったカウンター攻撃だ!


ガキンッ!

甲高い金属音と共に激しい火花が散る!


確かな手応えはあった! だが、テンペストは怯まない!


「へっ! やるじゃねえか! なかなか面白い攻撃だ!」


テンペストは怯むどころか、兜の奥でさらに好戦的な笑みを浮かべたように見えた。

まるで、手強い相手との戦いを心から楽しんでいるかのようだ。


(このパワー重視のゴリ押し戦法……この楽しそうな感じ……やっぱり、アオイ先輩なのか!?)


『ねえ、サトシ。このテンペストってアバターの戦闘スタイル、なんだか昼間に会った風間アオイ先輩にそっくりじゃないかしら? この大雑把でパワフルな感じ……あと、一人称が「僕」ってところも♪』


アリスがわざとらしく付け加える。

テンペストのアバターからは一人称は聞こえないが、アリスには何か別の情報ソースがあるのか……?

いや、単なるカマかけだろう。


その後も、一進一退の攻防が続いた。

テンペストの圧倒的なパワーと破壊力。

対する俺は、ハッキング技術を応用したトリッキーな動きとスピードで翻弄する。


アリスの的確なサポートを受けながら、フィールド上の障害物を利用したり、一時的に相手のセンサーを誤作動させるプログラムカード「コード・ジャマー(電波妨害)」をデプロイしたりと、とにかく持てる技術を総動員して食らいつく。


観客席の興奮も最高潮に達しているのが分かる。

そして数十回は打ち合っただろうか。

互いのアバターには無数の傷が刻まれ、エネルギー残量を示すゲージも残りわずかとなっていた。


「これで……決めさせてもらう!」


俺は最後の力を振り絞る。

アリスが解析したテンペストの移動予測地点に先回りし、思考インターフェースに、切り札となる輝くプログラムカード「月影・虚(つきかげ・うつろ)」をセット!


「――デプロイ!」


『プログラムカード「月影・虚(つきかげ・うつろ)」、効果最大レベルで発動します!』


アリスの凛とした声が響く!

月影の刀身が淡い光を放ち、物理的な斬撃ではない、相手のアバター制御プログラムそのものに直接干渉する特殊なデータパルスが、テンペストのアバターを内側から侵食していく!

これは俺のハッカーとしての能力を応用した、対アバター用の特殊攻撃だ!


「ぐっ……! なんだ、この攻撃は……!? チクショー、内部システムに直接きやがったか!」


テンペストのアバターが大きくのけぞり、全身から激しいノイズが迸る!

斧槍が手から滑り落ち、重い音を立ててフィールドに突き刺さる。

そして、ゆっくりとフィールドに膝をついた。


『……Winner, 【SAT0$H1】!』


アナウンスが響き渡り、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。

まさかのランカー撃破に、会場全体が興奮に包まれている。


「……はぁ、はぁ……」


俺もまた、消耗しきっていた。

まさかここまで苦戦するとは……。辛うじて掴んだ勝利だ。


フィールドに倒れ伏したテンペストのアバターが、ゆっくりと顔を上げる。

その重厚な兜の奥から、意外にもスッキリとした、やはり聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……くっそー、マジかよ…! 完敗だ! けど、あんた、面白いな! 気に入ったぜ! 名前、聞かせてもらえるか?」


「……【SAT0$H1】だ」


「【SAT0$H1】……覚えたぜ! なあ、あんた、メチャクチャ強えな! よかったら、フレンド登録しないか? また手合わせ願いてえ!」


テンペストのアバターの前に、フレンド申請のウィンドウが表示された。

まさか、あのランカーの方から申請が来るとは思わなかった。


『受けるの、サトシ? 面白いことになりそうじゃない? アオイ先輩(僕っ娘)かもしれないし♪』


アリスが楽しそうに、からかうような口調で囁く。


(風間アオイ先輩、なのか……? この戦い方、この口調……十中八九、そうだろうな……僕っ娘だし……)


確信に近いものを感じていた。

だが、もしそうだとしたら、これも何かの縁なのかもしれない。

それに、情報交換とか、何かと役に立つかもしれない。


俺は少し迷った後、表示された「承認」ボタンに触れた。


「サンキュ! よろしく頼むぜ、【SAT0$H1】!」


テンペストはそう言うと、満足げにガッツポーズをしてから、アバターを潔く消滅させた。

まさに嵐のような奴だった。


『ふふ、これでサトシの交友関係(ウィーヴ限定)も少しは広がったかしら? 次は誰とフレンドになるのかなー? レイヴンさんとか?♪』


「……うるさい。それより、アリス。昼間拾ったデータチップの解析は進んだか?」


アリスの軽いからかいを適当にあしらいながら、俺は勝利の疲労感と共に、新たな出会い(ほぼ確定)への微かな期待と、それ以上の面倒くささを感じていた。


バトルアリーナ『修羅』。

ここは、ただアバターが殴り合うだけの場所ではないのかもしれないな、と。

そんな予感が、ますます強くなっていた。


(第四話 了)


【次話予告】


テンペスト絶対アオイ先輩だろ!

フレンド申請まで来ちゃったけど、これ承認したらどうなるんだ!?

正体バレたらヤバいって!


そんな俺の心労も知らず、現実リアルでは妹のユキの様子がやっぱりおかしいし、アリスからはデータチップ解析完了の報告!

中身は一体……!?


そんな中、ミューからはついに《シードカード》発見の連絡!

でも現場にはレイヴンもテンペストも来るって……おいおい、昨日までの敵と今日から仲間とか、展開早すぎだろ常識的に考えて!


次回、『俺ハカ』第五話「アマノイワトの秘密、重なる運命」


美少女ハッカー大集合!?

ライバルたちと背中合わせの共闘とか、少年マンガみたいで燃えるぜ!


#俺ハカ #まさかの共同戦線 #シードカード #僕っ娘 #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック #バトル回



第4話「嵐を呼ぶ先輩! ランカー・テンペスト」、お読みいただきありがとうございました!


姉御肌のアオイ先輩、その正体はやっぱり…? バトルアリーナ『修羅』での激闘、楽しんでいただけましたか? まさかのランカー撃破とフレンド申請で、サトシの周りはますます賑やかに! テンペスト(アオイ先輩?)もサトシの強さに興味津々みたいですね…! これからの二人の関係にも注目です!


さて、次回はついに最初の《シードカード》発見の連絡が! しかし、その現場には宿敵(?)レイヴンや、戦ったばかりのテンペストも現れるようで…!? 敵か味方か、それとも…? 美少女ハッカーたちとのドキドキ共同戦線が始まります!


どうぞお楽しみに!


【今後の更新について】


次回、第5話「アマノイワトの秘密、重なる運命」は、次の【水曜日 19:50】に更新予定です!


本作『俺ハカ』は、原則【毎週 月・水・金の19:50】に更新していきます!

ぜひブックマークや通知設定で、更新をチェックしていただけると嬉しいです!


【応援のお願い】


もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価やブックマーク登録、感想などで応援いただけますと幸いです!

皆さまからの温かい反応が、私たちチームの執筆の大きなエネルギーになります!


それでは、また次回お会いしましょう!


#俺ハカ #バトル回 #僕っ娘 #姉御肌 #ランカー撃破 #フレンド申請 #まさかの共同戦線 #シードカード #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック #美少女大集合 #毎週月水金更新

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