第三話:生徒会長は孤高の鴉?
第三話:生徒会長は孤高の鴉?
翌日の放課後、僕は緊張しながら生徒会室の前に立っていた。
理由は、生徒会長からの呼び出しを受けたからだ。
まさか、昨夜の幻想図書館へのダイブや、その前のヤタガラス・インダストリーへの潜入がバレたのだろうか……?
いや、そんなはずはない。
父さんが遺したカスタムNEO-L1NNKとアリスのステルス機能は完璧なはず。
『マスター、心拍数が規定値を超えて上昇しています。リラックスしてください。呼び出し理由は、先日提出された文化祭実行委員の希望調査に関する確認事項である可能性が九十八・二パーセントです』
現実モードのアリスの冷静すぎる分析を聞いても、緊張は一向に解けない。
だって、相手はあの橘レイカ先輩なのだから。
橘レイカ。
桜舞高校三年生にして、生徒会長。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。
全校生徒の憧れの的。完璧超人という言葉がぴったりだ。
もちろん、僕のような陰キャにとっては、空に浮かぶ月、あるいは雲の上の存在のように感じられる。
意を決してドアをノックする。
「どうぞ」
鈴を転がすような、しかしどこか温度を感じさせない澄んだ声が聞こえ、促されるままに中に入る。
「し、失礼します。二年の、中島です」
「あら、中島くん。わざわざお越しいただいて、申し訳ありませんこと」
生徒会長席に座るレイカ先輩は、完璧な微笑みを浮かべていた。
長い黒髪が艶やかに流れ、知的な切れ長の瞳が、ゆっくりと、値踏みするような、それでいて何かを探るような複雑な光を宿して僕を捉える。
美しい。
けれど、どこか人間味を感じさせない。
用件は、アリスの予測通り、文化祭実行委員に関するものだった。
いくつか簡単な質問をされ、僕はしどろもどろになりながら答える。
先輩は、一つ一つの言葉を、まるで最適な単語を選択するように、ゆっくりと、丁寧に紡いでいく。
その完璧さが、逆に僕を萎縮させる。
『……ユーザー・橘レイカの生体データをスキャン。 体温、脈拍、脳波、全てにおいて異常なほどの安定性を示します。まるで、常に『最適化』されているかのようです……。不自然なほどに完璧です。マスター、警戒レベルを一段階引き上げます』
アリスの報告が脳内に直接響く。
最適化? どういうことだ?
確かに、レイカ先輩は常に冷静沈着で、感情の起伏をほとんど見せない。
だが、それは彼女の性格や、努力によるものだとばかり思っていた。
アリスの分析が正しいなら、この人は一体……?
「――というわけで、中島くんには、展示部門のサポートをお願いしたいのです。PCスキルが高いと伺いましたので。わたくし、期待しておりますわ」
ゆっくりと、しかし有無を言わせぬ確かな意志を込めて、彼女は言った。
その瞳の奥は、やはり感情の色を映していないように見えた。
「は、はい! が、頑張ります!」
なんとか質疑応答を終え、まるで蛇に睨まれた蛙のように、逃げるように生徒会室を後にする。
完璧すぎる先輩の姿に、言いようのない違和感と、どこか底知れない怖さを覚えていた。
◇◆◇◆◇
その夜。
俺は【SAT0$H1】として、再びウィーヴにいた。
ミューから新たな情報――違法なアバターパーツやデータが取引されている闇マーケット「ナイト・クロウ」についての情報がもたらされたからだ。
もしかしたら、そこに「シードカード」の手がかりがあるかもしれない、と。
『闇マーケット「ナイト・クロウ」ね。アクセス記録がほとんど残らない、厄介な場所よ。ウィーヴのL2に属する、文字通り無法地帯。でも、こんなアングラな空間でさえ、ウィーヴ全体を覆う冷徹な監視の目からは逃れられない気がするわ。潜入するなら、いつも以上に慎重にいかないとね、サトシ』
アリスの忠告を受け、俺はネオンサインが乱反射するデータの吹き溜まりのような空間へとダイブした。
怪しげなアバターたちが集い、著作権無視の違法データや、危険な攻撃プログラムのホログラム広告が明滅している。
まさに混沌だ。
『この雰囲気、嫌な感じね……。目的のブツは一番奥のセクターみたいだけど……気をつけて』
アリスのナビに従い、胡散臭いアバターたちの間をすり抜けて進む。
ターゲットは、希少なアバター強化パーツを専門に扱うという闇ディーラーだ。
そのディーラーが、「シードカード」に関する情報を持っている可能性があるという。
ディーラーの隠れ家のような区画へたどり着き、接触しようとした――その瞬間だった。
閃光!
漆黒の影が、音もなくディーラーに襲いかかった!
鴉をモチーフにした、鋭角的で流線型の黒いアバター。
両腕には鋭利なブレードが装着されている。
そのスピードは尋常ではなく、ブレードが空気を切り裂く音もなくディーラーの防御フィールドを貫き、ディーラーは抵抗する間もなく無力化され、データ体が崩壊しかけている!
「なっ!?」
周囲にいた他のアバターたちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、漆黒のアバターはディーラーが持っていたデータストレージを冷徹に奪い取る。
「情報、確保」
――短く、それだけ呟くと、背中のジェットウィングを展開し、一瞬でその場から飛び去ろうとする。
『あの最適化された動き……! まるで計算され尽くした戦闘アルゴリズム! サトシ、あのアバターの動作パターン、さっき接触した橘会長の生体反応パターンと酷似しているわ! 一致率、八十八・九パーセント……! まさか……!』
アリスの驚愕の声が響く。
俺も息を呑んだ。
あのアバターが、レイカ先輩……?
いや、そんな馬鹿な。
あの完璧な生徒会長が、こんな闇マーケットで強盗まがいのことを?
漆黒のアバター――コードネームを《レイヴン》とでも呼ぶべきか――は、飛び去る直前に、俺を一瞥した。
その仮面の下の瞳は、冷たく、感情が読めない。
「……邪魔」
そう言い捨てると、音もなく闇の中へと消えていった。
圧倒的な実力、そして一切の無駄がない言葉と動き。
呆然とその場に立ち尽くす俺の足元に、キラリと光るものが落ちているのに気づいた。
レイヴンが落としていったのだろうか? それとも……?
手のひらサイズの、黒曜石のような光沢を持つ小さなデータチップだった。
『サトシ、これを解析してみる? 何か手がかりになるかもしれないわ。それに、このチップ……微弱だけど、L1NNK社特有の暗号化プロトコルの痕跡が検出できる。レイヴンが追っていた情報と何か関係があるのかも……』
アリスの言葉に頷き、データチップを拾い上げる。
橘レイカと、謎のハッカー・《レイヴン》。
L1NNK社の影。
そして、このデータチップ。
新たな謎が、また一つ、俺の目の前に提示された瞬間だった。
(第三話 了)
【次話予告】
レイヴン=レイカ先輩説、濃厚すぎ!
でも証拠がないんだよな……。
先輩が残した? データチップの謎も気になる!
そんな中、今度は現実で
PC部の姉御肌・アオイ先輩に絡まれた!
なんでもウィーヴ内のバトルアリーナ『修羅』で
腕試ししようぜ、だと!?
よっしゃ、俺(【SAT0$H1】)の実力、
見せつけちゃうか!
……って、対戦相手が
いきなり有名ランカーの《テンペスト》!? マジかよ!?
てか、このパワフルな戦い方……
どこかの脳筋……いや、豪快な先輩にそっくりじゃね……?
次回、『俺ハカ』第四話「嵐を呼ぶ先輩! ランカー・テンペスト」
もしかして、また身近な人が凄腕ハッカー!?
俺の周り、一体どうなってんの!?
#俺ハカ #先輩が強すぎる件 #バトル回 #クール系も捨てがたい #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック
第3話「生徒会長は孤高の鴉?」、お読みいただきありがとうございました!
完璧超人な生徒会長・レイカ先輩の不穏な雰囲気…からの、闇マーケットでの漆黒のアバター《レイヴン》との遭遇! 正体は一体…? 新たな謎とデータチップ、そしてまた一人、ミステリアスな美少女(?)が登場し、サトシの周りがますます賑やかになってきましたね!
さて、次回はクール系(?)先輩の次は、元気いっぱいの姉御肌、アオイ先輩に絡まれます! ウィーヴのバトルアリーナ『修羅』でまさかの有名ランカーと激突!? こちらの先輩も、なにやら秘密がありそうで…?
どうぞお楽しみに!
【今後の更新について】
次回、第4話「嵐を呼ぶ先輩! ランカー・テンペスト」は、次の【月曜日 19:50】に更新予定です!
本作『俺ハカ』は、原則【毎週 月・水・金の19:50】に更新していきます!
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それでは、また次回お会いしましょう!
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