第2.5話:幻想図書館への扉
ミューこと桜井ミウとの奇妙な共闘が始まって数日。
俺たちはヤタガラス・インダストリーのサーバーから、なんとか「シードカード」の欠片と思しきデータを回収することに成功した。
だが、それはパズルのピースが一つ増えたに過ぎない。
「シード計画」の全体像も、父さんの行方も、依然として深い霧の中だ。
ミューは解析のため一旦離脱し、俺はアリスと共に、以前ミューから託されたデータチップ――「幻想図書館」への道標――の解析を続けていた。
『……やったわ、サトシ! チップの最終プロテクト解除! これで「幻想図書館」への隠しルートが……!』
アリスの興奮した声が頭の中に響く。
解析画面には、ウィーヴの正規マップには存在しない、複雑怪奇な経路図が表示されていた。
だが、そのルートの危険度を示す警告表示が、赤く激しく点滅している。
『こ、これは……。ウィーヴのシステムが「異常領域」として認識している、不安定なデータ層を無理やり繋ぎ合わせたルートみたい。正規の転送ゲートも使えないし、監視プログラムに捕捉されるリスクも極めて高いわ。それに、ルート自体がいつ崩壊してもおかしくない……。まるで、ウィーヴ自身が拒絶しているみたい』
アリスの声には、珍しく強い懸念が滲んでいた。
「幻想図書館」。
ウィーヴ創生期からの情報が眠るという伝説のアーカイブ。
父さんがそこにアクセスしていた可能性がある以上、行かないという選択肢はない。
「危険は承知の上だ、アリス。父さんの手がかりがそこにあるかもしれないんだ」
『……分かってる。サトシが行くって言うなら、私は全力でサポートするだけよ! でも、絶対に無茶はしないでね! 約束よ!』
「ああ、約束する」
その夜。
俺は再び《SAT0$H1》として、漆黒のコートを翻し、ウィーヴの深淵へとダイブした。
今回の相棒はアリスだけだ。
(あいつ…いや、桜井はまだウィーヴに慣れていないし、なによりあんなドジな後輩を、こんなシステムの墓場みたいな場所に連れてくるわけにはいかないからな)
ミューには「危険すぎるから、ルートが安定したら連絡する」と伝えてある。
彼女をこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。
『隠しルートへのエントリーポイントに到着。ここから先は、ウィーヴの管理外領域……何が起こるか分からないわ。精神接続、最大レベルで維持して!』
アリスのナビに従い、正規ルートから外れた、データノイズが渦巻く空間の裂け目へと飛び込む。
瞬間、世界が歪んだ。
上下左右の感覚が曖昧になり、色と光が乱雑に混ざり合う、まるでバグった世界。
これがウィーヴの「歪み」……システムの狭間に存在する、忘れ去られたデータ領域か。
『サトシ、気をつけて! 前方に異常プログラム群! これは正規の防衛システムじゃない……ウィーヴの免疫機能みたいな、自律型の駆除プログラムかも!』
歪んだ空間から、不定形な、しかし明確な敵意を持ったプログラムたちが現れる!
それはまるで、システムに巣食う異物を排除しようとする抗体のようだ。
「来るか! アリス、カード準備!」
『「マルチ・ロックオン」! 「ホーミング・レイ」!』
「セット! デプロイ!」
プログラムカードを展開!
無数の光線が、迫りくる異常プログラムを正確に撃ち抜いていく。
だが、敵は次から次へと湧き出てくる。キリがない。
『ダメだわ、サトシ! このルート、ウィーヴ自体が私たちを拒絶してる! このままじゃジリ貧よ!』
「なら、無理やりこじ開けるまでだ! アリス、最大出力で空間穿孔プログラムを! 一気に駆け抜ける!」
『りょ、了解! でも、アバターへの負荷が大きいわよ!』
「構うな!」
『プログラムカード「|ワームホール・ジェネレーター《空間穿孔》」、チャージ開始! ……5、4、3、2、1……チャージ完了!』
「――デプロイ!」
アリスのカウントダウンと共に、目の前の空間が強制的に捻じ曲げられ、光り輝くトンネルが形成される!
「行くぞ、アリス!」
全速力でワームホールへと突っ込む!
アバターに凄まじい負荷がかかり、視界が明滅する。
だが、その先には――
静寂があった。
歪んだ空間を抜け、辿り着いたのは、どこまでも続くかのような、巨大な書架が立ち並ぶ空間。
古めかしい羊皮紙の巻物から、最新のデータキューブまで、あらゆる時代の「知識」がデータとして保存されているようだ。
ここが、「幻想図書館」……。
『すごい……。本当に存在したんだわ……。でも、空気が重い……。まるで、膨大な情報そのものが意思を持っているみたい……』
アリスが息をのむ。
だが、図書館の中心部へ続く扉らしきものは、巨大な一枚岩のようなもので固く閉ざされていた。
表面には、解読不能な古代文字のようなパターンが明滅している。
『これは……強力な封印ね。物理的な破壊は不可能。何らかの「鍵」がないと開かないタイプだわ……』
「鍵、か……」
やはり、一筋縄ではいかないか。
今回の探索はここまでが限界のようだ。
だが、諦めたわけじゃない。必ずこの扉を開けてみせる。
「アリス、引き上げるぞ。今日のところはな」
『了解。でも、大きな一歩よ、サトシ。父上の手がかりに、確実に近づいてるわ』
アリスの励ましに頷き、俺たちは転送ゲートを使って現実へと帰還した。
ベッドの上で荒い息をつきながら、ダイブギアを外す。
全身に疲労感が残っているが、それ以上に、確かな手応えを感じていた。
「幻想図書館」は実在した。
あとは、あの扉を開ける「鍵」を見つけるだけだ。
それが「シードカード」なのか、それとも別の何かか……。
今はまだ分からない。だが、やるべきことは見えている。
(……それにしても、あのウィーヴの「歪み」と異常プログラム……まるで、システムそのものが自己防衛しているみたいだったな……。巨大な管理者の存在を感じずにはいられない……)
そんなことを考えながら、俺は重い体を起こした。
疲れてはいるが、学校をサボるわけにはいかない。
そういえば、今日は生徒会長に呼び出されていたんだったか……。
なんでまた、あの完璧超人の先輩が、僕なんかに用があるんだ……?
少しだけ、嫌な予感が胸をよぎった。
(2.5話 了)
第2.5話「幻想図書館への扉」、お読みいただきありがとうございました!
ついに伝説の「幻想図書館」へ到達! でも、すんなりとは入れないようですね……あの「鍵」とは一体? ウィーヴのシステムの歪みや抗体プログラムも、不気味でした。ミューちゃんを危険な目に遭わせないサトシの優しさ(?)も垣間見えましたね。
さて、次回はいよいよ現実で生徒会長・橘レイカ先輩と対峙! そしてウィーヴでは、あの謎の高速ハッカー《レイヴン》と接触することに…? 美人だけどミステリアスな先輩の秘密とは?
どうぞお楽しみに!
【今後の更新について】
次回、第3話は [明日20時] に更新予定です!
【応援のお願い】
もし少しでも「面白い!」「図書館の謎気になる!」「会長怖いけど気になる!」と感じていただけましたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価やブックマーク登録、感想などで応援いただけますと幸いです!
皆さまからの温かい反応が、私たちチームの執筆の大きなエネルギーになります!
それでは、また次回お会いしましょう!
#俺ハカ #幻想図書館 #チートハーレム #電脳戦記 #AIハック #ウィーヴの歪み #生徒会長怖い




