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第1.5話:迷子のミュー? 始まりのシード

【読者の皆様へ:更新に関するお詫びとお知らせ】


いつも『俺ハカ』をお読みいただき、誠にありがとうございます。


早速のお知らせとなり大変恐縮ですが、第一話公開後の最終確認(査読)の段階で、今後の物語の展開との整合性に関わる点が見つかりました。


つきましては、当初の予定を変更し、より自然な形で物語を進めるため、急遽ではございますが、今回『第1.5話』を挿入させていただくことになりました。


それでは、第1.5話をお楽しみください。

昨夜のデータ強奪と、「イザナミ・アイ」とかいうヤバそうな監視プログラムとの遭遇は、かなり神経をすり減らした。

ベッドの上でぼんやりと天井を見つめながら、俺、中島サトシは昨晩手に入れたキーワードを反芻する。

「――シード計画……」

『おはようございます、マスター。昨晩の解析により、いくつかの情報が判明しました』

不意に、頭の中に滑らかな標準合成音声が響く。

僕の管理AI、アリスだ。

ウィーヴにいる時とは違う、事務的で冷静な声。

「何か分かったのか、アリス?」

『はい。例の監視プログラム、コードネーム:イザナミ・アイですが、アマテラス重工サーバー固有のものではなく、より広域を巡回する上位システムの末端である可能性が示唆されました。昨夜の遭遇は、タイミング的な偶然であった可能性が高いと推測されます』

「ウィーヴ全体を巡回……? まるで、この電脳空間そのものが巨大な監視システムみたいだな……」

父さんが関わっていたかもしれない「シード計画」と、このウィーヴの不穏な動き。

無関係とは思えない。

『次に「シード計画」に関してですが、回収したデータからは依然として具体的な内容は特定できませんでした。しかしながら、複数のアクセスログに、統計的に有意な共通パターンが検出されました』

「共通パターン?」

『はい。「幻想図書館」と呼ばれる、アクセス困難な高レベル情報集積エリアへの不正アクセス記録です。正規ルートではなく、非正規のバックドア経路が使用されています』

幻想図書館……。

噂には聞いたことがある。

ウィーヴ創生期からの情報が眠ると言われる、伝説のデータアーカイブだ。

普通のハッカーじゃまず辿り着けない、迷宮のような場所。

「父さんも、その図書館に……?」

『その可能性は高いと判断します。そこに「シード計画」に関する情報が存在する可能性があります。ただし、当該エリアは極めて危険度が高いため、まず情報収集を優先することを推奨します。ウィーヴの情報屋が集まる「澱み《よどみ》のデータ溜まり」が適しているかと』

「了解。今夜、行ってみるか」

◇◆◇

学校での退屈な時間をやり過ごし、俺は再び自室のベッドに横たわる。

妹のユキには「また夜更かし?」とジト目で見られたが、知ったことか。

こっちが本番なんだ。

「アリス、「接続」開始」

『OK、サトシ! 今夜も頑張りましょ! 精神防壁、最大! 監視網回避、お任せあれ! The Mind-Weaveへようこそ!』

いつもの心地よい浮遊感と共に、意識がウィーヴへと飛翔する。

漆黒のコート、白銀の刀「月影」、デジタルノイズの仮面。

ハッカー、《SAT0$H1》、ログインだ。

アリスのナビに従い、俺はウィーヴのネオン輝くデータハイウェイを疾走する。

周囲には、様々なアバターが行き交う。

獣人、ロボット、ファンタジー世界の住人のような姿……現実とは比較にならない自由がここにはある。

だが、その自由も「見えざる管理者」の手のひらの上なのかもしれない。

『目的地は「澱み《よどみ》のデータ溜まり」、レイヤーはL1とL2の狭間あたりね。比較的安全なエリアだけど、油断はしないでね』

「澱み《よどみ》のデータ溜まり」は、正規のデータポートからは外れた、古いサーバー群が打ち捨てられたようなエリアにあった。

薄暗く、不安定なデータノイズが霧のように漂っている。

あちこちに、情報屋と思しきアバターたちが怪しげな取引をしている姿が見えた。

『この辺りで「シード計画」や「幻想図書館」について聞いてみましょうか……って、サトシ、あれ!』

アリスの声が、不意に緊迫した響きを帯びる。

彼女が示した方向を見ると――

空間の一部が激しく歪み、赤黒いデータノイズが嵐のように渦巻いていた!

明らかに異常な現象だ。

データ災害……いや、もっと悪質な何か。

『きゃあああっ!』

悲鳴が聞こえた。

嵐の中心付近で、小さな人影が吹き飛ばされそうになっている。

白い巫女装束に、長い黒髪。

小柄で、か弱そうな女の子のアバターだ。

彼女の周囲には、暴走した警備プログラムのような、凶悪な姿のデータクリーチャーが数体、迫っていた!

「チッ……面倒ごとに首を突っ込むのは柄じゃないんだがな……!」

だが、見捨てるなんて選択肢は、俺の中にはない。

「アリス! あの子を援護する! 敵性プログラムの情報を!」

『了解! コードネーム「データ・レイス」。ウィルスの一種みたい! 物理的な攻撃も仕掛けてくるタイプよ! 接触するとアバターデータが破損する危険性が高いわ!』

「やっかいな……!」

月影を抜き放ち、データ・レイスに向かって突進する。

「そこの巫女さん! 大丈夫か!」

『ひゃっ!? あ、あなたは……!?』

巫女アバターの少女――《ミュー》と呼ばれた気がした――は、驚いたようにこちらを見上げる。

大きな瞳が不安げに揺れていた。

「話は後だ! アリス、カード準備!」

『いつでもOK! 「スタン・グレネード」!』

「セット! デプロイ!」

思考インターフェースでカードを選択、実行する。

手元から放たれた光の球が炸裂し、強烈な閃光とデータノイズがデータ・レイスたちの動きを一時的に止める!

『すごい……!』

《ミュー》が息をのむ。

「今のうちに逃げろ!」

月影で動きの鈍ったレイスを斬り伏せる。

だが、敵の数はまだ多い。

次々と新たなレイスがノイズの嵐から湧き出してくる!

『サトシ! 数が多いわ! それに、あの嵐、どんどん広がってる! このエリア全体が汚染されるかも!』

「くそっ……! ミューちゃん、だったか? この状況、何か心当たりは?」

斬り結びながら、俺は背後の少女に問いかける。

『わ、私……追われてて……これを、守らないと……!』

《ミュー》は、胸元で何か小さなものを大事そうに抱きしめている。

よく見ると、それは一枚のカード……?

俺が使うプログラムカードとは少し違う、不思議な輝きを放つカードだ。

「追われてる? それに、そのカードは……」

『「シードカード」……世界の……鍵……』

シードカード!?

父さんの追っていた「シード計画」と関係があるのか!?

その瞬間、ひときわ巨大なデータ・レイスが、《ミュー》目掛けて襲いかかった!

「危ない!」

咄嗟に《ミュー》を突き飛ばし、巨大な爪のような攻撃を月影で受け止める!

ズシリと重い衝撃。

アバターの腕が痺れる。

『サトシ! 無茶しないで!』

「こいつ……!」

巨大レイスの動きは、他の雑魚とは明らかに違う。

統率されているような、明確な殺意。

『アリス! あれをやるぞ!』

『!……分かったわ! プログラムカード、「データ・ドレイン」と「オーバーロード」をコンボで! ちょっとリスクあるけど……!』

「構うな!」

思考加速。

二枚のカードイメージを同時に展開する。

『セット!』

「デプロイ!!」

巨大レイスに二つのプログラムが同時に叩き込まれる!

一つは、対象のデータを強制的に吸い上げるプログラム。

もう一つは、吸い上げたデータを暴走させ、過負荷で自壊させるプログラム。

『グオオオオオオッ!?』

巨大レイスの体が膨張し、内部から亀裂が走る!

そして――大爆発を起こして、周囲の雑魚レイスもろとも消し飛んだ!

「はぁ……はぁ……」

月影を鞘に納め、荒い息をつく。

周囲のデータノイズの嵐も、親玉が消えたことで急速に収束していく。

「大丈夫か、ミューちゃん」

倒れていた《ミュー》に手を差し伸べる。

『あ……ありがとうございます……! あの、あなたは……?』

《ミュー》は、おずおずと俺の手を取って立ち上がった。

改めて見ると、綺麗な顔立ちをしている。

少し怯えたような、潤んだ大きな瞳が、なんだか守ってやりたい気持ちにさせる。

……いやいや、何を考えてるんだ俺は。

「俺は《SAT0$H1》。ただの通りすがりのハッカーだ」

『サトシさん……。助けていただいて、本当に……。私、《ミュー》って言います』

彼女は深々と頭を下げた。

「それより、さっき言ってた『シードカード』ってのは……」

俺が核心に触れようとした、その時。

『サトシ! 新たな高エネルギー反応を探知! さっきのイザナミ・アイとは違うけど……これもヤバい! 急いで離脱しないと!』

アリスの警告が頭に響く!

《ミュー》も、何かを感じ取ったのか、顔色を変えた。

『追手が……もうこんな近くまで……! サトシさん、ごめんなさい! 今日はここまで……! でも、もし……もし、あなたも「シード」を追っているなら……』

《ミュー》はそう言うと、一枚の小さなデータチップを俺の手に握らせた。

『これを……。「幻想図書館」への……道標(みちしるべ)になるはずです……!』

「おい、待て!」

俺が呼び止める間もなく、《ミュー》の姿は光の粒子となって掻き消えた。

強制ログアウトか、あるいは転移か。

手元には、小さなデータチップだけが残された。

『……行っちゃったわね。あの子、一体何者なのかしら』

アリスが心配そうに呟く。

「さあな……。だが、手がかりは掴んだ」

俺はデータチップをしっかりと握りしめる。

「シード計画」、「シードカード」、そして「幻想図書館」。

謎は深まるばかりだが、進むべき道は見えてきた。

(第1.5話 了)

第1.5話「迷子のミュー? 始まりのシード」、お読みいただきありがとうございました!


今回は、新たな出会いがありましたね。謎めいた巫女アバター《ミュー》、そして彼女が口にした《シードカード》と《幻想図書館ファントム・ライブラリ》……物語の核心に迫るキーワードが動き出しました。


さて、次回は日常パートでまさかの疑惑が!? そしてウィーヴでは、ミューと共に更なる《シードカード》の手がかりを求めて危険な領域へ……?

どうぞお楽しみに!


【今後の更新について】

次回、第二話は [明日、20時] に更新予定です!

第三話までは毎日更新を予定しております!


【応援のお願い】

もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたら、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価やブックマーク登録、感想などで応援いただけますと幸いです!

皆さまからの温かい反応が、私たちチームの執筆の大きなエネルギーになります!


それでは、また次回お会いしましょう!


#俺ハカ #ミュー #幻想図書館 #シードカード #サイバーパンク #AI美少女

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