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■一章 フィーリングが似た者同士 2


 ■■■


 昼休みの屋上。

 和田は朝の謝罪と彼女のご機嫌取りを兼ねた昼食に坂本から誘われた。

 だが常識的に考えて邪魔者であろう和田は一人気分転換を兼ねて普段誰もいない屋上にやって来た。

 何もない殺風景な屋上。あるのは落下防止用のフェンスと木のベンチだけ。

 ベンチの上で仰向けになれば白い雲が大空をゆっくりと泳いでいる。


「……疲れた」


 誰にも気を使わなくていい。

 周りの目を気にしなくていい。

 そう言った環境が好きな和田は静かに目を閉じる。

 風の音が微かに聞こえる。ただそれだけ。でもそれが良い。

 クラスに居るだけでも疲れる心を癒してくれるのは自然。

 家に帰ればそこに音楽もある。

 このまま平和に昼休みを過ごそうと考えた時。


「どうしたの? まるで誰から逃げるように教室出て行って」


 優しい声。

 突然聞こえてきたのに、そう感じさせない声量。


「だれ、だ?」


 目を閉じたまま確認する。


「私だよ。少しだけお話しない?」


 平和な時間が早くも終わったと思い渋々起き上がろうとすると、


「そのままでいいよ。私は隣の空いている席に座るから」


 と、まるで和田の心情を知ったような声と素振りを見せる小柳。


「なら、遠慮なく」


 なので、ご厚意に甘えてそのまま目を閉じて意識だけを向けることにする。

 こんなところで出会うのは偶然だろうか。


「教室居ると疲れるよね~」


 一学期は挨拶とたまに雑談する関係だった二人。

 だけど教室以外でこうして二人きりで話すのは初めて。


「もしかして、緊張してる?」


「すこし」


「そっかぁ。一人の時間好きなの?」


「……あぁ」


「聞きたいことあるんだけど聞いてもいいかな?」


「もうマジックはしてないの?」


「そうだな。魔法使う時にするぐらいだな」


「こっちが本命なんだけどもう一つ聞いてもいいかな?」


 ここで会ったのは偶然ではないようだ。

 普段から注目の的の彼女が一人になる時間。

 それは限られている。

 なぜなら小柳千里の周りにはいつも誰かいるから。

 まるで誰から身を護るように仲良し女子の輪の中にいる。

 なので臆病者の男子だと会話は愚か挨拶すらしたくてもできない。

 そんな彼女がわざわざ和田に会いに来てまで聞きたいこととは一体なんだろうか。


「あぁ」


「明久君だけなんだ」


「なにが?」


「クラスの男子で私に興味の素振り見せないの? 同性愛主義者にでも目覚めた?」


 想像もしていなかった言葉に否定するのもめんどくさいと思ったが、誤解が広まっても嫌なので、


「はぁ~、そんなわけあるか」


 言葉と一緒にため息も出てしまった。


「なら私のこと嫌い?」


「べつに」


「そっかぁ。ところでなんでいつもツンツンしてるの? そんなんじゃ友達できないよ?」


 その言葉にまたか、と思う。

 周りが気を使ってくれることは嬉しい。

 だけど気の使い方が皆間違っている。

 だから何度目になるかわからない最早テンプレートとまでなった回答を言う。


「心が疲れたから、今は一人で居たい。だから一人にして欲しい」


「そっかぁ。それは大変だったね」


「…………」


「私はその逆だよ。心が躍ってる、ようやくここまで来たんだって!」


「お疲れ様」


「ありがとう! そう言ってもらえると素直に嬉しいかな?」


「なら良かった」


「その人の背中はあまりにも遠くてずっと憧れだったの。でも最近ようやく追いついたような気がしてるんだ……ってもう聞いてないか。お休み、明久君」


「…………」


 それから会話はなかった。

 だけど昼休み終わりのチャイムで目を開けた和田の前には小柳が居た。


「おはよう。よく眠れた? 午後の授業頑張ろうね!」


 寝ぼけていて理解が追いつかない和田は頷くことしかできなかった。

 せっかく誰かが優しくしてくれているのだから、受け入れればいいのに。

 それに小柳が髪をかきあげた時に香る夏の香りはどこか安心できる匂いだった。

 人との関わりが面倒くさいと普段から考えているせいで、そのチャンスを逃してしまった。


「まぁ、今度でいいか」


 五時間目は魔法実技演習。

 急がないと遅刻するな……。

 そう思い、歩を進めるのであった。



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