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■三章 真実と過去 3


「憧れた……か。確かに昔はそんな風に色々な人から言われたな」


「昔? 私は今でも憧れているよ?」


「ありがとうな。嘘でもそう言ってくれて」


「嘘じゃない! 私明久君に憧れて国家公認の魔法使いになったんだから!」


 その言葉は和田にも本気ってわかった。

 言葉が持つ熱量がたしかに和田の中に届いたからだ。


「そうか。よく頑張ったな」


 急に涙もろくなった小柳は体操服で涙を拭く。


「うん。ずっとずっと追いかけてきたんだ」


「千里は凄いな」


 和田は素直に褒めた。

 憧れだけでここまで追いかけて辿り着いたと言うのだから本当に凄いと思ったから。

 ただし憧れた魔法使いは現在落ちこぼれ魔法使いと申し訳ない気持ちになる。

 とてもじゃないが、もし叶うなら自分を憧れだと言ってくれた人にはこんな姿は見せたくなかったと思った和田の心は締め付けられた。


「ありがとう」


「今の千里に残してやれることは……同じ道を歩むなってことぐらいか……」


「明久君?」


「確認だ。今潰れそうなんだな?」


「うん」


「どんな感じで潰れそうなんだ?」


「色々な悩みが同時に押し寄せてきてとても不安なの。そのまま押しつぶされちゃいそうな感覚かな?」


 和田がその言葉を聞いた時。

 同じような道を歩んでここまで来た魔法使いは同じような道を歩んで潰れようとしていた。真似して欲しくない所まで無意識だろうが真似している小柳に和田は迷ったが過去を話すことに決めた。

 きっと、目の前で小柳が潰れたら一生後悔すると思ったから。


「この前の話しの続きしてやるよ」


「えっ?」


「今日までだ。俺の背中を追うのは。これからは自分の道を歩け。そのための失敗談だったら話してやるよ。ただし真奈以外知らないから誰にも話すなよ。特に坂本の耳には絶対入れないと約束して欲しい」


「……う、うん。わかった」


 和田は中学生までの話しをした。


「俺は――」


 途中どういった異変が起きて、どういった過程で魔法が使えなくなったのか、伝えられる範囲内でありとあらゆることを伝えた。

 途中話を聞く小柳はとても真剣だった。


「そんな過去があったんだ……知らなかった」


 小柳には殆どの内容が初耳だった。

 今の小柳は震えている。想像してしまったのだろう未来を。

 近くに小柳を引き寄せて、震える体を腕で包んで続ける。

 今伝えたらまだ間に合うかもしれないと和田は信じていた。


「国家公認の魔法使いが魔法を使えなくなった。そんな世間的にデメリットな話題は政府によってもみ消される。幾ら組合や協会が独立機関と言っても一部の者たちは政府と繋がっている以上必然だ」


「そうなんだ……」


「政府とだけなら俺は潰れなかった。マスコミやメディアとも繋がっているから厄介だった。今も多分何かしらの方法で監視されてるって感覚がなぜかある。だから恐いんだ……人を信じることが……。裏切られたらどうしようって……。裏切られなくても信じた人を経由してなにかされるんじゃないかって。国家公認の魔法使いにならないとわからない沢山の視線に俺は恐怖して今も逃げている。きっとその間は一生魔法を上手く使えないと確信まで持てる」


 なにより心の感度を落として、周囲のことに鈍感になればそう言った視線はなくなると思っていた。和田の考えは浅かった。それではその場しのぎにしかならなかった。良くも悪くも自暴自棄になりかけたタイミングで北条が側に居てくれたからそこまで落ちなかっただけで。それは今でも続いている。打開策を見つけきれないからだ。他人を傷つけでも自分を護ることにした。冷たい態度を取れば人は自然と離れる。そうすれば人を疑うことをしなくて済む。孤立、孤独、そんな物監視の目や裏切られることに比べれば安いものだ。


「気を付けろよ。魔法組合や協会の人間は自分たちの利己的な利益のために俺たちを利用するときもある。極秘裏に扱われる情報が時折メディアに漏洩するのもそれが原因だ」


 生き残るために命をかけて当時の自分が集めた情報。

 それが誰かのためになるなら教えてあげてもいいと思った。

 もし。

 もっと早く小柳と出会えていたら、途中で止められたんじゃないかって思う和田。

 あまりにも辛くて、北条がいなければ自殺していたであろう人生。

 そんな人生を知って欲しくない。

 でもその人生に近い人生を送ろうとしている少女が居たら救いたいと思う。

 それが先輩としての願いであり想い。

 いつもそうだ。和田の人生には後悔しかない。

 だけど後悔しかないから和田だけにわかることもある。


「こっちこい。我慢しなくていい今は」


「うぇぇぇぇんっ」


 お兄ちゃんに抱きついて泣く妹のような光景。

 和田は泣いて心が楽になることを知っている。

 泣くことを我慢した和田は辛かった。

 泣くことができた時の和田は救われた。

 そんな過去の体験からより良い方を選んであげる。

 体が近づいたことで、小柳の髪から香る夏の匂い。

 和田の好きな香りでもある。

 よしよし、と背中をさすってあげる。

 小柳が落ち着くまで和田はただ黙って側にいた。

 …………。

 ……。

 小柳が落ち着いたタイミングで泣き顔は皆に見せられないと言う理由から魔法を使って小柳と和田の分身を作って体育館の中へ送り込む。

 二人が体育館の壁窓から覗いてみると誰に気づかれることなく上手くいってくれていた。


「やっぱり凄いな」


 分身が近づいても先生が違和感すら覚えない高度な魔法。


「まぁ……これくらいなら……」


「それでお前はここにいるのか?」


「う、うん」


 和田の体操服を掴んで頷く小柳。

 振りほどくのは簡単だがそれをするとまた泣き出しそうだったので和田は最後まで付き合うことにする。


「体育館裏なら誰も来ないし付き合うぞ」


「ありがとう」


 二人は人目を警戒しながら、体育館裏に移動した。

 移動が終わると泣き疲れたのか、和田の隣に座った小柳が身体を倒して目を静かに閉じた。



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