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■三章 真実と過去 1

この章では、新しい過去がわかります。

そしてラストに繋がっていきます。


 翌日――魔法演習。

 二クラス合同で行われる魔法演習の班分けでAグループになった和田は小柳と一緒に体育館に居た。

 男女でペアを組むのはカップル以外では珍しいので早くも目立つ和田と小柳。

 身体接触があるので、基本は男子より女子の方が嫌がることが多いからだ。

 班別けは担当先生たちの気分で決まるのだが、今日のAグループは他のグループと比べてレベルが高いメンバーが集まっていた。

 お互いの体を押したりして補助しながら準備運動を終わらせる。


「うぅぅぅ~、気持ちィぃィぃィ~」


 体を引っ張られ、声をあげる小柳。

 そのせいで余計注目される。


「なんか嬉しいな」


「急にどうした?」


「こうして明久君が私と向き合ってくれるの」


 無邪気な笑顔を和田に向ける小柳。

 その微笑みに緊張していた和田の心がホッとする。


「その笑みは本物なんだな」


「……わかるの?」


 開脚をしていた小柳が動きを止めた。


「前から違和感があったからな」


「そっかぁ。私のこと見てないようで見てくれてたんだね!」


 そう言って止めていた動きを再開させる小柳。

 そうこうしているうちに、準備運動時間が終わった。

 ペアごとに先生がスペースを確保して、指示に従う。

 和田と小柳は隅の方のスペースに振り分けられた。


「今日はよろしくお願いします!」


「あぁ、よろしく」


 挨拶をしてお互いに握手をして構える。

 この前と違い、真剣にしなければ大けがをすると思った和田は気合いをいれる。

 すると、懐かしい気持ちになる。

 いつ振りだろうか。ここまで神経を張り巡らせて真面目に身構えるのは。

 そんな感覚に、身体が呼応して自然と構えることができた。

 半身になって、右足を軽く引き両手は顔より少し下。

 拳は握らず、卵を掴む感覚。


「流石だね。構えに隙がない。なら私も!」


 瞬間。

 正面に鏡が合って反射した自分を見ているのか? と錯覚する和田。

 小柳が同じ構えを取ったからだ。

 見よう見まねなどではない。

 まるで私がオリジナルと言わんばかりに対峙しただけで分かるソレは熟練者が放つ覇気。

 手から汗が滲み出るのは体が危険信号を放っているから。


「怖じ気づいちゃった?」


 その言葉に和田は鼻で笑う。


「かもな」


 目の前の女の子はとても小さくて可愛い。

 だけど容姿とは逆で彼女が放つ覇気はとても大きくて重い。

 気を抜けば一瞬で勝負が付くだろう。

 忘れていた感覚が――血に沁み込まれた感覚が――目覚めるような感覚につい微笑む和田。


「一本目、始め!」


 先生の合図と同時に左ジョブを囮に間合いを詰める。

 相手の重心が右に寄ったタイミングで空を切り裂く右上段蹴り。

 和田の蹴りを全身でしっかりと受け止める小柳に素早く足を引いて左足を軸にしたまま回転蹴り。手加減を知らない蹴りは素人高校生相手なら一撃で倒す壊力がある。

 それをバックステップと一緒に手で受け払った小柳は微笑んでいる。


「小柳の奴、珍しく面白いことしてるのか」


 先生も思わずにっこりするレベルの組手は一方的のようでそうじゃなかった。

 攻撃こそ最大の防御。

 格上相手では一度でも防御に回ったら勝ち目はない。

 だったら攻撃あるのみと和田の覚悟に小柳が受けて立っていた。


「思った以上に重い一撃……反撃が遅れちゃう」


 お互いに譲らない攻防は中心地の半径二メートル圏内で行われていた。

 小柳から来る攻撃は全部無視して気合いで受け止める和田。

 防御に回す時間があったら、攻撃の一秒を縮めたいと思ったから。

 お互いに体が温まって来たタイミングで魔法を使った組手へシフトチェンジした。


「加速!」


 小柳の動きが速くなった。右ストレートが和田の顔面に向かって飛んで来る。ギリギリで躱す和田に余裕がなくなった。

 小柳の一撃に危機感を覚えた和田も魔法で対抗する。

 ドクンっ!


「――加速」


 同じ魔法を使った。

 なのに攻防が続くほど明確になる差。

 先ほどまでの均衡状態が嘘かのようにボロボロと崩れ始める。

 慌てて魔力を練り直して再発動するが、安定的に魔力を全身に送れない動力源では持続的な魔法を維持出来ず断続的に切れてしまう。三秒から五秒を目安に一度途切れる魔法は魔法使いとしては致命的な欠陥と言えた。

 周りの視線が、先生の期待が、過剰に気になって遂に途切れる魔法。


「――しまっ……」


 目の前に迫った上段蹴り。

 それに対して和田の脳が判断に迷う。

 躱すには間に合わない。なら受け身か?

 既に集中力も散漫している脳では判断が間に合わず、咄嗟に伸ばした左手だけのガードとなり和田は体ごと吹き飛ばされてしまった。


「明久君!?」


 慌てて駆け寄ってくる小柳。


「だ、大丈夫!?」


 頭を抑える和田を見た小柳は近くにいた先生の元に行き、


「ちょっと休憩します」


「わかった。無理はするな。外の空気でも吸ってこい」


 断りを入れて離れた小柳はそのまま頭痛に苦しみ始めた和田を連れて体育館の入り口に移動した。



作品のフォロー・評価・応援よろしくお願いします。

トゲトゲしいと人は離れていきやすいですが、それでも離れようとしない二人の中にはどんな彼がいるのでしょうか?

そこに注目してもらえると嬉しいです。

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