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■二章 もう一つのフィーリング 13


 ――――。


 ――――…………。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 わからない。

 でも人の気配がして目を開けると、隣に北条が居た。


「おまたせ」


「真奈か」


「そうだよ~。それにしても凄いね、私が部屋に入ると同時に意識を目覚めさせるなんて」


「まぁな」


 その言葉に「そっかぁ」とだけ答える北条。

 和田も北条もお互いに口にはしなかった。

 一人で生きていこうと、一人で身を護ろうとした。

 そんな心が今も無意識に警戒心を張り巡らせて過敏になっているのだと。

 気を抜けばメディアに囲まれ、気を許せば大人たちの欲望の道具にされる。

 そんな風に考える事でしか自分を護れなかった少年の心はまだ臆病なままだった。

 気を抜くことすら上手くできない心は一体いつ休まればいいのか?

 外にも内にも常に警戒心を張り巡らせる日常を終わらせる方法。

 それが分かれば和田は楽になれるかもしれない。


「瞑想してどうだった?」


 和田はありのままを北条に伝える。


「魔力回路は多分生きてると思う。ただ――」


「ただ?」


「最高出力が足りてない。まるで何かが邪魔している感じ」


 長い距離を送魔しようとすると、どうしても何処かでエネルギーが逃げてしまう。

 体内を巡る魔力回路にも同じことが言える。


「これはまた大変だ……」


「だな」


 自分事なのにまるで他人事のように返事をする和田。

 内心半分はすぐにどうにかできない問題だと諦めている。


「それにしても引っかかるよね」


「なにがだ?」


「二学期になってから小柳さん急接近し過ぎじゃない?」


「そうか?」


「私の個人的な意見言ってもいい?」


 確認を取るのは、場合によっては和田を傷つけてしまうかもしれないから。

 北条の確認に和田が頷く。


「あぁ」


「なんで相談相手があきなの? なんで明日の演習組手があきなの? 相談相手なら今日仲良さげな先輩でもいいだろうし、演習組手も今のあきより強い人は女子にもいるよね?」


「そうだな」


「たしかに公認の魔法使いの悩みはあきってのは理解できるよ? でもそれ以外は別にあきじゃなくてもいいって気がしてる」


 なるほど、と和田は納得する。

 小柳クラスの情報網があれば幾ら隠しても和田の本名を調べるぐらい造作もないだろう。

 それで調べて、相談相手として決めた。

 いわば小柳からして見れば、和田は公認の魔法使いの先輩だから。

 その考えに付け加えるように北条が続ける。


「悩み相談なら別に一学期からでも良かったはず。それを今さらするってことは……やっぱり狙われてるよね? 今日も私居なくなってから話しかけられたでしょ?」


「んっ? あぁ~言われてみればそうだったな」


「親しくなるなとは言わないけど、親しくなるってことは今日みたいにあきのことわかっていないバカ男子たちの嫉妬の対象にもなるってこと。無理して怪我するんじゃないかって思ったら私心配だよ……」


 返事に困る和田。

 そうだ、今の和田ではバカ男子たちにすら勝てない。

 今日のような状況が起きれば危ないかもしれない。

 和田と北条は幼馴染。

 お互いの過去も今もよく理解している。

 かつて同世代で群を抜いていた魔法使いとしての姿も落ちこぼれた魔法使いの姿も北条は知っている。


「私的には仲良くなるならせめてもう少し魔法が使えるようになってからでもいいと思うの。怪我でもしたら大変だし……ね?」


 和田の決めたことに否定はしない。

 ただ和田のことが本気で心配だからこそ黙っていることができない北条。

 過去の惨劇を再び繰り返したくない、そんな気持ちが北条の心を突き動かす。


「大丈夫だ、心配するな。約束したからな」


「約束?」


「頑張るって」


 こんなにも和田思いの北条には悪いと思った。

 それでも和田は言った。頑張ると。

 人はなにかきっかけがあることで良くも悪くも変わることがある。

 だからこれも何かのいいきっかけだと考えていた。

 可能性は低い。

 でもここで逃げたら今後ずっと北条に同じ心配をかけるかもしれないと思った和田の心は震えながらも新しい一歩を踏み出そうとしていた。


「それは……もしかして私のため?」


 北条は上目遣いで何かを期待したようなまなざしを向ける。


「んなわけ、……あるか」


 照れくさかったので、和田は嘘を付いた。

 だけど、幼馴染。


「へぇ~違うんだ~」


 簡単に見逃すはずなく。

 嬉しそうにニヤニヤしながら、悪い笑みを向ける北条。


「それにしては言葉が詰まったね」


「……っ」


「それで誰のために頑張るの?」


「……」


「あれれ~、気まずそうに視線を外してどうしたのかな?」


 手の平で優しく触れて自分を見るように仕向ける北条の口元は緩んでいる。


「認めるから勘弁してくれ」


「もぉ~たまに素直じゃなくなる、そういう所は可愛くないなー」


 ほほう。

 和田は頭を働かせてみる。


「なぁ、キスしていいか?」


 お互いの顔の距離は吐息が触れ合うぐらい。

 小悪魔が先ほど顔を近づけてきたからだ。


「な、なっ、な、な、なぁ、な、なにぃよ急に!?」


 言った本人以上に照れて、顔を真っ赤にする北条。

 顔が火照って生まれた熱が和田にも伝わる。


「嫌か?」


「あっぅぅぅ……い、いやじゃない……よ?」


 嬉しいのか、恥ずかしいのか、照れているのか、わからない。

 多分全部の感情が北条の脳を刺激しているようだ。


「…………ん~、してくれないの?」


 中々来ないキスに……。

 先に我慢の限界がくる北条。

 唇を尖らせて訴える。

 そんな北条を焦らす和田。


「恥じらう真奈は可愛いなって」


「うぅぅぅ~そんなことないもん……それよりまだぁ?」


 仲が良いだけにお互いの弱点も把握済み。

 北条に可能なら和田にとっても可能であり、それは反撃を意味する。


「なにが?」


「…………っ、…………ち、………ちゅー」


「さっきからかわれたし……どうしようかなー」


 してやったりの顔を見せた和田。

 そこでようやくからかわれたと知った北条がフグのように顔を膨らませる。


「むぅ~私をからかったね?」


「なんのことだ?」


「ちゅー期待したのに……期待させるだけさせてする勇気がない意気地なし!」


 ピクッ。

 和田の眉間がほんの一瞬動いた。


「昨日だって雰囲気良かったのに手も出さずに寝ちゃうし! 私の気持ちなんだと思ってるの?」


「ん? 昨日?」


「はっ!?」


 墓穴を掘ったと気づいた北条が慌てて両手で口を隠す。

 目の焦点が合わなくなった羞恥心Maxの北条を見てニヤリと微笑む和田。


「なにか言うことあるか?」


「……………………………………ごめんなさい」


 それは何に対する謝罪か。

 手元にあった布団を掴み、身を丸くして団子になる北条。

 限界を超え、ついに我慢できなくなった自我は敗北を認め殻に閉じこもる。

 そうしないと羞恥心で死んでしまいそうな北条に選択肢はなかった。

 このままでは恥ずかしい姿を永遠と見せることになると確信した北条は告白する。


「…………だって甘えるあき超可愛いかったし……我慢しただけ許してよ……」


 弱々しい声で自白と謝罪をする北条はチラッと布団の隙間から和田の顔を覗き込む。


「……おこってる?」


「そんなわけあるか」


「…………ほんとうに?」


「あぁ」


「…………うそじゃない?」


「悪かったよ、からかい過ぎた。だからこっちこい」


「……うん」


 北条はもぞもぞと団子のまま和田に近づく。

 近づいた所で隙間に手を入れて和田が頭を撫でると「えへへ~」と喜ぶ北条。


「今日も一緒に寝てくれるよね?」


「あぁ」


「甘えてくれる?」


「……あぁ」


「私も甘えていい?」


「あぁ」


「なら、良かった……安心した」


 二人の長い夜はまだまだ続く――。


作品のフォロー・評価・応援よろしくお願いします。


心の距離をさらに縮める真奈の次なる一手は、、、

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