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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第3章 夜明けの森
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新しい武器は

 いつものように夜明けの森から帰還したユウの状況はいつもとは違った。長らく使っていた棍棒が破砕してしまったのだ。主武器(メインウェポン)の喪失と言えば冒険者にとっては大事件だが、ユウの場合はその武器が棍棒なので微妙ではある。


 そうはいっても、武器がなければ戦えない。ユウは休日の朝にすぐ武具屋『貧民の武器』へと向かった。


 年季の入った木造の建物の中に入り、所狭しと展示されている武器を見る。まともそうなのから錆びているっぽいものまで品質にばらつきがあるが、今はとりあえず無視だ。見たいのはそこではない。


「ホレスさん、この展示されている武器を触っていいですか?」


 奥のカウンターに座っているホレスにユウが声をかけるとうなずかれた。それから再び棚に並べられた武器へと目を向ける。


 最初に手に取ったのは槌矛(メイス)だ。棍棒に近いだけあって気になる武器である。棍棒に近い約60イテックの長い槌矛(メイス)を手に取った。わずかによろける。


「思ったよりも重いな。やっぱり鉄だから?」


 昨日まで使っていた棍棒と同じ感覚で手にしたユウは眉をひそめた。長さは文句ないものの振るうには少し重い。前に素振り用として使っていた重い棍棒にむしろ近かった。


 次いで40イテックという短めの槌矛(メイス)を手にする。重さの面では問題なかった。軽く振ってみても感触は良い。しかし、使っていた棍棒の3分の2の長さというのはどうにも心細かった。


 手にした武器を棚に戻してユウは悩む。いきなり条件がぴったりと合う武器に巡り会えるとはユウも思っていなかったが、一長一短の武器たちを目の前にすると迷って仕方ない。


「これは意外に時間がかかるかもしれないなっと」


 つぶやきながらユウは剣を手に取った。冒険者に最も人気のある武器だ。それだけに大小様々な種類がある。その中でも選んだのは最も基本的な大きさと形の剣だ。


 手にした剣を右手1本で構えてみる。使っていた棍棒とはほとんど変わらない。刃渡りは長い方の槌矛(メイス)と同じくらいだ。周囲に気を配りながらゆっくりと振りかぶって振り下ろす。剣での切りつけ方を知らないので腕を振っただけだが感触は悪くない。


 次いで戦斧(バトルアックス)を選ぶ。長い方の槌矛(メイス)と同じくよろけた。ここでユウは気付く。武器の先端に鉄の塊があるせいで重心が非常に偏っているので、槌矛(メイス)共々持ったときによろけたのだ。右腕だけで軽く振ってみる。


「先っぽが重い。これは練習しないといけないな」


 振り終わったユウは眉をひそめた。


 槌矛(メイス)の場合、先端ほど威力が高いのはもちろんとして、鉄の棒のどの部分に当たってもそれなりの威力が保証される。しかし、斧系統は先端の金属の刃の部分に攻撃を当てなければならない。ユウはこれを難しく感じたのだ。


 次に目をつけたのは戦槌(ウォーハンマー)である。


「うっ、重い」


 片手で持ち上げようとして失敗したユウは顔を引きつらせた。戦斧(バトルアックス)以上に重心が先端へ偏っているので持ち上げにくい。


 両手で持って振り上げて下ろしてみる。これは駄目だとユウはすぐに判断した。持ち上げたときにふらつくようでは扱えない。


 他にも槍を持ってみるなど展示されている武器をユウは次々と触っていく。色々と特徴があって夢中になる。


 一通り触ってみたユウは一歩引いて展示されている武器を眺めた。自分にどれがいいのか思いを馳せる。そこでふと気付いた。武器の値段をそもそも知らない。


 今ユウの懐には銅貨38枚と鉄貨5枚がある。街に滞在するときの生活費と森で活動するときの消耗品費を考慮すると、武器に使えるのは銅貨30枚程度だ。棍棒がない今、この範囲で今日武器を買わなければならない。


 表情を引き締めたユウはカウンターへと向かった。先程から黙って座っているホレスに話しかける。


「ホレスさん、武器の値段を知りたいんで教えてください。例えば、あの長い槌矛(メイス)はいくらになりますか?」


「銅貨40枚だな」


「あれで銅貨40枚ですか!? それじゃ短い方だといくらなんです?」


「銅貨28枚だ」


「ダガーのときもそうでしたけど、武器ってお金がかかるんですね」


「そういうもんだ。これでも手頃な方だぞ。あの剣なんか品質は悪いがそれでも銅貨50枚はする。まともな品質なら100枚だ」


「うへぇ、そんなにするんだ」


「前にも言ったが、武器なんてここいらじゃ冒険者しかしょっちゅう買わねぇから、どうしても値段がその分高くなるんだ。ジェナんところの道具屋の品と値段を比べるなよ?」


「それはわかってるんですけどねぇ。ちなみに、あの戦斧(バトルアックス)戦槌(ウォーハンマー)はいくらになるんですか?」


「銅貨で35枚と32枚だ。あの2つは作る手間はそれほどじゃねぇが、材料の金属を多く使うからな。その分値段が上がる」


 気になる武器の値段を聞いたユウは絶句した。どれも予算を上回る。引き締めた表情が引きつった。そもそも買えない。


 再び陳列棚へと目を向けたユウは武器を眺めた。予算に納まりそうな武器はないか探す。


「あの短い方の槌矛(メイス)手斧(ハンドアックス)だといくらになります?」


「銅貨で28枚と20枚だ。そういやお前さん、確か棍棒を使ってたんだよな。そろそろ乗り換えるのか?」


「昨日魔物を殴ったらばらばらに壊れちゃったんですよ。だから今日見繕わないといけないんです。主武器(メインウェポン)なしじゃ戦えませんから」


「あーそいつぁ」


 珍しくホレスの表情が変化した。同情の眼差しをユウに向ける。しかし、それ以上は口にしなかった。


 一方、同情されたユウが今必要としているのは武器だ。正確には武器を買うための金銭である。せっかくある程度貯まったと思ったら、実は全然不足していたという事態に陥って顔をしかめていた。


 扱いやすさと予算という条件から絞り込むと選べる武器はほぼ限られる。というより、短い槌矛(メイス)手斧(ハンドアックス)の二択だ。前者の長さ40イテック、後者は35イテック程度である。重さは手斧(ハンドアックス)の方が軽い。


 どちらを選んでも殺傷範囲が棍棒の3分の2になってしまうのが問題だった。そして、どちらも普通は予備武器(サブウェポン)扱いである。


「はぁぁぁ、これどうしようかなぁ」


「何をそんなに迷ってるんだ?」


「僕の今の予算は銅貨30枚なんですよ。この範囲で今武器を買わないといけないんです」


「さっき言ってたな」


「それで、買える武器が槌矛(メイス)手斧(ハンドアックス)の2つだけなんですよ。だからどうしようかと」


「そいつぁきついな。どっちも予備武器(サブウェポン)だ。せめて長い方の槌矛(メイス)にしたらどうなんだ?」


「手持ちのお金がないんです。銅貨38枚と鉄貨5枚が僕の全財産なんですよ」


「こりゃ八方塞がりだな。だったら棍棒と同系統のしかねぇ」


手斧(ハンドアックス)は駄目ですか」


「扱い方が似てるからその方がとっつきやすいってのもあるんだが、槌矛(メイス)の方が丈夫なんだよ。何しろ作りが単純だからな。今日武器を買ったらお前さんはしばらく稼がなきゃならんだろう? その間にまた壊れたなんてなってみろ、詰んじまうぞ」


 助言を聞いたユウは肩を落とした。薄々気付いていたことなので反論できない。


 結局、ユウは短い槌矛(メイス)を買った。




 安宿屋『ノームの居眠り亭』の戻ったユウは、大部屋の寝台でごろごろとしていた仲間に新しい武器を見せた。最も強い反応を見せたのはレックスである。


「おぉ? 結局槌矛(メイス)にしたのか! マジか!」


「扱いやすいというのもあったんですが、一番の理由は予算の都合で」


「予算ってどのくらいだったんだ?」


「銅貨30枚くらいです」


「ちゃんと買おうと思ったら60枚くらいは必要じゃね?」


「他の道具も買わないといけなかったんで仕方ないんですよ! それに、生活費や消耗品の補充もありますし!」


「おぉ? そ、そうかよ」


 いつもより険しい剣幕で言い返されたレックスはたじろいだ。


 そんな不機嫌そうなユウに今度はフレッドが疑問をぶつける。


「けど、前の棍棒よりも短くねぇか? いいところ予備武器(サブウェポン)だろ?」


「本当は長い方を買いたかったんですが、お金が足りなかったんです」


「やっぱりカネかぁ。なんかお前っていっつもカネに足を引っぱられてるよな」


「稼ぎは悪くないのに出費が多すぎるんですよ、冒険者って!」


「あーうん、まぁそうだな。でも、道具や装備が揃ったら安定して貯められるぜ」


「早くそんな日が来てほしいですよ」


 商店で働いていたときよりも金銭の巡りが激しい冒険者家業にユウは打ちのめされた。


 仲間の様子を見ていたアーロンがユウに声をかける。


「武器を槌矛(メイス)にするんなら、昼からの稽古はレックスが教えた方がいいな」


「オレもそう思うぜ!」


「なら頼んだ。きっちり仕込んでやってくれ」


「へへ、任せろ!」


 指導役を任されたレックスは嬉しそうに声を上げた。


 それを見ていたユウは寝台に腰を下ろす。武器1つ思うように買えない現状にため息をついた。


 ともかく、新しい稽古の予定が決まる。まだまだ学ぶことは多かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 間合いが変わるのはコツつかむまで大変かな
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