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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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何かが色々とおかしい(中)

 1度は別れたと思ったコミニアヌスとアテリウスの2人から滞在費を貸してもらえないかと頼まれたユウは困惑した。夜明けの森で何をしていたのかという以前に、どうやってアドヴェントの町にやって来たのかという疑問が頭の中に渦巻く。


 ユウはふと空を見上げた。相変わらずの曇り空だ。先程の買取担当者とのやり取りで今が五の刻と六の刻の間なのがわかっている。買取カウンター近辺の冒険者の数を見てもまだそこまで遅い時間ではない。


 ある意味今日は早めに帰ってきて正解だったのかもしれないと思いつつ、ユウはアテリウスに問いかける。


「お金を貸すのは良いとして、返す当てはあるの?」


「貨幣はないが、ちょっとした資産ならあるんだ。旅をするなら持っておくべきやつだよ」


「ということは、換金できるものがあるんだ。そうなると、どこで換金すれば良いのかわからないから当座の滞在費がほしいわけかな」


「そうだな。探せば見つかるだろう」


 落ち着いた様子で返答してきたアテリウスを見ながらユウは大丈夫だろうかと不安になった。念のために確認してみる。


「アテリウス、その資産がもし砂金や宝石でそれらを交換するつもりなら、言っておくよ。例えば、貧民街にある市場に交換できる店はある。でも、はっきりと言うと信用できない。店主はぼったくろうとするからそれをどう防ぐかなんだけれど、そういった駆け引きはできるかな? それと、町の中にある商館は商人や商売人、そして行商人でないと原則利用できないんだ。商人や商売人の紹介状があれば話は変わるけれど、そういうのは持っている?」


「なん、だと。他にはないのか?」


「探せば闇取引なんかの店はあるだろうけど、もっとひどいことになるよ」


 ユウの説明を聞いたアテリウスが頭を抱えた。どうやら当てが外れたらしい。一方、ようやく頭の痛みから立ち直れたらしいコミニアヌスは不安そうにユウとアテリウスの顔を見比べていた。


 この町まで旅をしてきたにしてはどうにも脇の甘い2人にユウはため息をつく。まるで何の常識も知らないようだ。そこでふとかつてのことを思い出した。森の中の遺跡からとある都市へ転移した直後、その周辺のことを何も知らないことで四苦八苦したことをだ。あのときは冒険者ギルドを頼って何とかなったが、この2人にはその頼れるものがない。


 幸い、この2人には換金できる資産があるという。あのときユウが持っていた魔石に相当するものだ。それならば何とかなる。現地で使える貨幣を鉄貨1枚すら持っていない不安はユウもよく知っている。


「わかった。今日の夕飯と宿は僕が面倒見るよ。あと、資産を換金できる場所も当てがある。そこには明日行こう」


「それは助かるが、構わないのか?」


「ありがとう、ユウ! 君は良い奴だな!」


「お前はちょっと黙っていろ」


「僕も2人と似たような状態になったことが1度あるんだ。あのときは本当にどうしようか途方に暮れたからね。人ごとには思えないんだ」


 ユウも似たような経験があると聞いたコミニアヌスとアテリウスの2人は目を見開いた。特にコミニアヌスなどは興味を引かれた様子である。


 一方、その話を隣で聞いていたトリスタンは微妙な表情をしていた。顔を近づけて小声でユウに話しかける。


「いいのか? 正直、この2人は怪しいぞ」


「でも、トリスタンと会う前にいた町に1人で転移したときのことを思い出すと、放っておくのはちょっと」


「そんな話もあったな。なら、仕方ないか」


 かつて本人から話を聞き、更には自伝も読んだことのあるトリスタンはユウの返答にうなずいた。これは否と言いづらい件だ。


 相棒を説得したユウはコミニアヌスとアテリウスに向かって口を開く。


「少し早いけれど、今から酒場に行こう。僕たち、これから夕飯を食べに行くんだ」


「いいね! 僕もお腹が空いてきているんだ!」


「確かにな。最近まともな飯を食っていなかったから楽しみだ」


「それじゃ今から行くよ。ついて来て」


 全員で酒場に行くことが決まるとユウが先頭を切って歩き出した。続いてトリスタン、コミニアヌス、アテリウスがその後ろを歩く。


 解体場を北回りに歩いたユウは原っぱを進み、西端の街道を横断して貧者の道に移った。この辺りになると冒険者以外の人々、主に貧民や労働者、それに行商人や旅人などが往来している。町の規模に応じた賑わいだ。そして、この辺りになると解体場の死臭は消え、代わりに生活臭が漂う。これが貧民のものなので慣れないとなかなかきつい。


 興味深げに周囲を見ていたコミニアヌスとアテリウスの2人はまた異なる悪臭に曝されて顔をしかめた。何かを我慢しているかのようなコミニアヌスが口を開く。


「これはまた、何と言うか、いろんな臭いが混ざっているのかな?」


「コミニアヌス、これは思った以上にまずいんじゃないか? 周りの人間も予想以上に不潔そうだぞ。聞いていた話以上じゃないか」


「そうだけれど、覚悟の上で来たんだ。今更引くわけにはいかないよ」


「引こうにも引きようがないけれどな、今の俺たち」


「うっ、それは言わないでくれ」


 色々と表情を変えつつもコミニアヌスとアテリウスの2人は小声で言葉を交わした。貧民街の様子に動揺しているようである。


 背後の様子を何となく察しながらもユウは振り向かずに進んだ。安酒場街に入ると周囲は酒精と吐瀉物の臭いで満たされる。背後から呻きの声が聞こえてきたので振り向くと、つらそうな顔をしているのが見えた。それでも黙って歩く。


 やがて安酒場街の南側までやってくると、4人は隣接する建物と同じで傷んだところの多い木造の店舗『泥酔亭』へと入った。かき入れ時にはまだ早いので客入りは少ない。


 そこへ給仕を務めるエラがやって来る。


「今日はお友達を連れてきてくれたの、嬉しいわ」


「この2人にも僕たちと同じやつを持ってきて」


「いいわよ。好きなところに座っててちょうだい」


 注文を終えたユウは近くの席に座った。他の3人もそれに倣う。料理と酒はそれほど間を置かずに届けられた。最初はエラが、次に酒場の女将タビサが運んで来る。


「タビサさんが持ってくるんだ」


「あたしより若い娘の方がいいってかい。残念だったね。サリーは今子供の面倒を見てるのさ」


「ああ別に文句を言ってるわけじゃないですよ。ただ、珍しいっていうだけで」


「こういう時間にたくさん注文してくれたお客の前に料理を運ぶことがあるんだよ」


 言い終えたタビサが厨房へと戻っていった。閑散期はサリーが子供の面倒を見るので給仕役を兼任しているらしい。


 運ばれた料理と酒はユウとトリスタンからするといつも通りの品だった。木製のジョッキになみなみと入れられたエール、皿の上に乗せられた硬そうな黒パン、色々な物が煮込まれたスープ、そしていくつもの種類の肉が積み上げられた盛り合わせがテーブル上にある。


「コミニアヌス、アテリウス、遠慮なく食べてくれて良いよ。足りなかったらまた注文してくれたら良いからね」


「ありがとう。ところでユウ、パンとスープはともかく、この肉はどうやって取るんだい?」


「こうやって、ナイフで食べたいだけ切り取れば良いよ。薄く切られたやつは手で摘まめば、ほらね」


 説明を求められたユウはコミニアヌスに実演して見せた。取り出した自分のナイフで鶏肉の一部を切り取って口に入れ、次いで飲み込んでから豚肉の薄切りを摘まんで食べる。


 そして、実演しながらもユウは内心で首を傾げていた。この食べ方は大陸各地を巡った際にどこでもほとんど変わらなかったからだ。コミニアヌスとアテリウスの2人がどこの地方の出身かわからないが、少なくとも食べ方を知らないということはないはずである。それなのに聞いてきた。実際に食べるところ見ていると確かに慣れていない様子だ。黒パンをちぎってスープに浸して食べることは知っているようだが、その黒パンの硬さに驚いている。何ともよくわからない反応だ。


 更には木製のジョッキに口をつけても戸惑いを見せている。


「へぇ、ビールとはまた違うんだね。少し甘い?」


「あまり泡立たないから違うとは思っていたが、雑味はあってもいけるな」


「ユウ、ナイフとフォークはないのかい?」


「ナイフは自分のを使えば良いし、フォーク?」


「もしかして料理人が料理のときに使うやつのことか? あのでっかいやつ」


 横から口の中を空にしたトリスタンが口を挟んできた。その説明に2人が目を見開く。しばらくそのまま固まっていた。


 結局、コミニアヌスとアテリウスの2人は戸惑いながらもユウやトリスタンと同じように手づかみで食事を進める。食べ方自体にはある程度慣れたようだが、肉の脂でナイフがべとつくのには終始顔をしかめていた。

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「えぐい」って最近、関西の芸人とかが流行らせてるみたいだけど、 まだまだ万人に通じる・・というところまでは浸透していないと思います。 標準語の「アクが強くて喉を刺激する味」という意味ではないので、分か…
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