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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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支店長との話し合い

 町の中にいたヴィアンの影武者が暗殺されてから、ユウたち4人はフランシス商会アドヴェント支店とのやり取りが増えた。その中でヴィアンの安全を図るため、レラの町に避難することになる。そして、アドヴェント支店からその協力を得るためにユウは話し合いに臨む1人に選ばれた。


 不要な外出は避けて部屋に閉じこもっていた4人は、会合当日になるとユウ、ヴィアン、ルパートの3人が城外支所へと赴く。ユウを先頭に建物内へと入ると行列のない受付カウンターの前に立った。代表してユウが声をかける。


「こんにちは、レセップさん。今日ここで商人との打ち合わせを予約していたんですが、知っていますか?」


「知らねぇ。なんだそれは」


「あれ? そうなんですか?」


「ちょっと待ってろ。聞いてくる」


 胡散臭そうに話を聞いていたレセップが立ち上がると奥へと姿を消した。それを見送った1人のルパートがユウに話しかける。


「知らないとはどういうことだ?」


「話が受付係まで通っていなかったということじゃないかな。レセップさんは僕たちの専属というわけじゃないから。これで戻って来て案内されたら良いんじゃないかな」


「そういうものか」


「町の中だとこういうときはすぐに案内してもらえるものなの?」


「そうだな。大抵は使用人にも話が行き渡っているものだ」


「もしかしたら、暗殺者を警戒してわざと伝えなかったのかも」


「なるほど、そう言う考え方もあるのか」


 レセップの態度に眉をひそめていたルパートはユウの話にうなずいた。話が広がるのを恐れてわざと末端に知らせていない可能性に納得する。


 2人が話をしているとレセップが戻って来た。受付カウンターへと近づくと立ったままユウたちに告げる。


「ついて来い、案内してやる」


 相手の反応を待たずにレセップは受付カウンターに沿って北の端まで歩いた。そうしてロビー側へと出るとそのまま北の壁にある出入口へと進む。


 どこに行くのか不思議に思いつつもユウたち3人は受付係の後に続いた。原っぱに出るとすぐに西側へと向きを変え、城外支所の壁に沿って歩く。そのため、ただでさえ強い悪臭が更に強くなっていった。


 臭いに最も反応を示したのはルパートだ。前を歩くレセップに声を上げる。


「私たちは商人との打ち合わせに来たんだぞ。まさか解体場にその場所があるのか?」


「すぐにわかるから黙ってついて来い。しゃべると悪臭を更に吸い込んじまうぞ」


 不満顔のルパートは反論しようとしたが、レセップの言う通り悪臭を余計に吸い込んでしまって顔を歪めた。隣を歩くヴィアンはそれをみて気の毒そうな顔をする。


 そんな背後の3人の様子を気にもせずにレセップは歩き続けた。解体場へと着くとその中に入る。臭気が一層強くなるがそんな臭いはしないとばかりに奥へと進んだ。やがて城外支所の建物の裏側にある扉にたどり着く。


 解体場と直接繋がっている出入口から建物の中へと入ったレセップはとある扉の前で立ち止まった。そうしてようやく振り返る。


「ここだ。中にはもう相手がいるらしいぞ。オレは話が終わるまでここで待ってるからな」


「わかりました。ヴィアン、ルパート」


「良いぞ、ユウ。入ってくれ」


 ヴィアンの許可を得たユウは扉を叩いた。中から許可の声が聞こえてきたので開けて入る。


 そこはあまり広くない部屋だった。6人用の打合せ室らしく、テーブルを挟んで3つずつの丸椅子が並べられている。その奥のひとつにフランシス商会アドヴェント支店の支店長ソロモンが座っていた。背後には2名の護衛が立っている。


 雰囲気を察したユウはヴィアンがソロモンの正面に座るのを見て、ルパート共々その背後に立った。ちらりと目を向けたルパートが小さくうなずく。これで正解ということは言葉遣いも変える必要があった。


 これは自分が話す機会はあるのかとユウが考えていると、ヴィアンとソロモンの挨拶が始まる。


「お待ちしておりました、ヴィアン様。このようなひどい臭いのする場所で面会することをお許しください」


「今は冒険者として活動しているから慣れているぞ。むしろそちらが耐えがたいだろう。それにしても、支店長自らがやって来るとは意外だな。荷馬車の用意だけなら担当の者を1人寄越せば良かったであろうに」


「ヴィアン様のお相手となると相応の者が必要となるのは当然でしょう」


「だが、支店長がここに来るのは目立つのではないか?」


「もちろんその点については考慮いたしました。我が商会内で荷馬車へ密かに乗り込み、南門から出て冒険者ギルド城外支所へと乗り込んだのです。これはご要望である荷馬車を後日送り出す試験も兼ねております。試験の結果は帰ってからでないとわからないので今すぐはご報告できませんが」


「そうであるのならば良い。では、荷馬車の件について早速話し合おう」


 挨拶が終わるとヴィアンはソロモンと本題に入った。手紙で伝えた要望の確認をする。荷馬車の台数や出発の日時、隊商を率いる商売人についての説明などだ。


 次いで細かい部分の打ち合わせだが、ここでヴィアンがユウを紹介する。


「荷馬車の護衛に関してはこちらのユウの方が詳しいので任せる。商会で1度見ていると思うが」


「はい、見かけたことは記憶しております」


「冒険者のユウです。前にここを出たアイザックさんの護衛をしていました」


「なんと、あの方の?」


「そうです。無事護衛の役目を果たした功績として、フランシス商会の会長から紹介状もいただいています」


「会長からの?」


 話ながらユウはその紹介状を懐から取り出した。それをソロモンの前に置く。


 差し出された紹介状を手に取ったソロモンがその内容を見ると半ば呆然とした。何度か紹介状とユウの顔の間で目を往復させる。


「これは驚きました。本物ではないですか。ああそういえば、前に会長直筆の紹介状を持った冒険者がいるという話を聞いたことがありますが、もしかしてあなたがその?」


「密輸組織摘発のときの囮の隊商でしたら僕です」


「でしたら間違いない。半信半疑でしたが、まさか本当だったとは」


「アイザックさんはこの町でも仕事をされていたんですよね」


「ええ、とても優秀な方でした。あの方が商会を離れたのは本当に大きな損失ですよ」


 ユウが水を向けるとソロモンが懐かしそうに語り始めた。それに合わせてユウはアドヴェントの町を出発して以降のアイザックの活躍とその後を簡単に語る。


 自分の知らないアイザックの話を耳にしたソロモンは微笑んだ。ユウへと嬉しそうに返答する。


「良い話を聞かせてもらいました。そうですか、マルコット市に向かわれましたか」


「ここからですと遠いですよね」


「そうですなぁ。おっと、これは失礼しました、ヴィアン様」


「構わない。懐かしい知り合いの話は弾むものだからな。だが、そろそろ本題を進めよう」


 微笑を浮かべたヴィアンがソロモンに告げると、ユウとソロモンの間で本題の細部が詰められた。その結果、4人分の護衛を装える荷馬車を用意してもらい、更には復路の仕事をレラ支店の支店長に用意してもらう書状をもらうことになる。


「ヴィアン様にとって今はトレジャーの町方面は危険ですから、レラの町へ向かう護衛は望ましいでしょう」


「後は、暗殺者に荷馬車の存在がばれないようにすることと、僕たちが乗り込むところを悟られないようにすることですよね」


「荷馬車の存在を知られないようにするのは無理ですが、ヴィアン様がお使いになられることを悟られないようにするのは可能ですね。いつも通りに商売をしているように装えばいいですから」


「ということは、冒険者ギルドに護衛の依頼を出しますか?」


「そうですね。西端の街道でしたら冒険者の護衛を雇うのもおかしな話ではないですからそうしましょう。報酬は平均的なものでよろしいですね」


「怪しまれないようにするならその方が良いと思います」


 こうして詳細も決まるとユウとソロモンの話が終わった。2人がヴィアンへと顔を向ける。


「話は決まったか? 今ので良いのだな。よし、ならばその通りにしよう」


「承知しました。少しお時間をいただきますが、予定通りには必ず」


「では、話し合いはこれで終わりだな」


「同時に外へ出ると目立ちますので、先にお帰りください。私は後でここを出ます」


「ルパート、ユウ、帰るか」


 席を立ったヴィアンよりも先に動いたルパートが扉を開けて外に出た。待っていたレセップと鉢合わせるが言葉はない。


 帰りはレセップに先導されて往きとは逆の道をたどる。そうして城外支所の北の端までやって来るとレセップはさっさと裏口から中へと入った。


 再び3人となったユウたちはそのまま宿へと向かう。まだしばらく引きこもる日々は続きそうだった。

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