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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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町の中からの連絡(後)

 宛先人も差出人も書かれていない封筒をヴィアンに差し出したユウは、トリスタンと共に町の中にいた影武者が暗殺されたことを聞かされた。身の危険を感じたヴィアンによってある程度の経緯を聞かされたことにより、トリスタン共々頭を抱えることになる。


 暗殺者についてほとんど何もわからない中、ヴィアンがユウとトリスタンに問いかける。


「今の状況はこんな感じだが、今後どうするべきだと思う?」


「まずルパートに意見を聞くべきだよ。恐らく正式な護衛の騎士なんでしょ?」


「ああ、うん、そうだったな。ルパート、お前はどうするべきだと思う?」


「今のところは町の中だけで暗殺が起きているので、町の外、この貧民街はそこまで危険ではないのではと考えます。ただ、油断はできないので、可能なら長期間夜明けの森の中に入るべきでしょう」


「つまり、今まで通りということだな」


「そうです。ユウに食料などを運んでもらいながら、森の浅い場所で天幕を使った野営を続けるというのもひとつの手です」


 ルパートは夜明けの森を避難場所として利用するということだ。魔物が出る森ではあるが、森の浅い場所ならば数は少なく魔物自体も弱い。暗殺者よりも対処しやすいということだろう。また、これで一定期間ごとに特定の場所を転々とできれば尚良しとも主張した。


 家臣の話を聞いたヴィアンは次いでユウを見る。


「ユウはどんな案がある?」


「いっそのことこのアドヴェントの町を離れたらどうかな。暗殺は町の中だけでしか起きていないけれど、それは今後町の外が安全ということは保証していないから。それとも、この町に滞在し続けないといけない理由はあるのかな?」


「この町に避難してきたのは私1人だけではなく、信頼できる者も何人かいるのだ。そして、いずれ別の場所からこの町に連絡がやって来たときに、私はとある場所へ行かねばならない」


「その人たちを一緒に連れて行ってレラの町を新しい潜伏先にするのはどうかな?」


「確証はないが、恐らく勘付かれて早晩追われるだろう。今までがそうだったからな」


「人数が増えると勘付かれやすいんだ。そうなると、最後はこの町にいないといけないということなのかな?」


「そうだ」


「なら、その最後のときまでは町を離れられるということで良いのかな」


「まぁそうだな。ただ、その連絡がいつ来るのかは正確にはわからんのだ」


「おおよそでもわかれば、その間だけ町を離れていれば良いじゃない。残りの不明瞭な期間はルパートの案でしのげば何とかなると思うけれど」


「ルパートの案も併用するわけか。ルパート、どうだ?」


「よろしいと思います。危険から可能な限り離れられるというのならば。ユウ、この町を離れてどこへ行くつもりなのだ?」


「レラの町を考えているよ。トレジャーの町の南側にあって、この町から南に伸びている西端の街道を伝って行くことができるんだ。この街道は寂れた街道だから周囲に人がいないし、基本的に後ろから追い抜かれるということもないから道中も暗殺の危険は少ないはずだよ」


「それはすばらしい」


「ただ、ほぼ1ヵ月くらいかかるから、歩くのはなかなか大変かな。僕はいつも荷馬車に乗って通ったよ」


「なら、フランシス商会に荷馬車を出させよう」


「僕たちは荷馬車の護衛を装ったら怪しまれにくいと思う」


「ヴィアン様、この案、私はなかなかに有効かと思われます」


「そうか。なら、ぜひやろう」


 ユウとルパートの話し合いによりまとまった案がヴィアンに採用された。これについてルパートがすぐに手紙を書いてユウが冒険者ギルド城外支所へと持って行く。


 建物内に入ると真っ先に行列のない受付カウンターの前に立った。そうしてレセップの前に立つ。


「おはようございます。レセップさん。この手紙を今日中に届けてください」


「オレは配達屋じゃねぇよ。依頼書を持ってくるから待ってろ」


 面相そうな態度の受付係が依頼書を差し出してきたのでユウは手早く記入した。そうして手紙と依頼料銀貨1枚を差し出す。


「ユウ、もうお前さんが持ってった方が早いんじゃねぇのか?」


「今は直接行けないんですよ。仕事の都合で」


「めんどくせぇなぁ」


「鐘が鳴る度に返信が届いているか確認しに来ますね」


「嫌がらせか?」


 手紙と依頼料を受け取ったレセップが嫌そうな顔をした。依頼を受けるかどうかは冒険者の自由意志なので、ユウが要求する今日中に届けるという要望が叶えられるかは通常わからない。そもそも手紙は速達されるようなものではないからだ。しかし、それでもユウが求めたのはレセップならばやってくれるという信頼があるからである。


 用を済ませたユウは宿に戻った。ヴィアンたちの部屋に入る。


「ヴィアン、ルパート、手紙は出してきたよ。今日中に届けるように伝えた」


「ありがとう。それにしてももどかしいな。すぐ近くなのだから行って話をしたらすぐだというのに」


「今も暗殺者に狙われ続けているんですから仕方ないですよ」


 もどかしげにしゃべるヴィアンをユウがなだめた。直接やり取りをやり過ぎて暗殺者に勘付かれるわけにはいかないのだ。


 そこへルパートが加わってくる。


「これで夕方まで待つというわけか」


「鐘が鳴る度に様子を見に行くから、もっと早く返信を受け取れるかもしれないよ」


「そもそも手紙が今日中に向こうへ届くかわからんだろう」


「レセップさんならすぐに届けてくれると思うけれどな」


「あの男が? どうにも信じられん」


「トリスタン、鐘が鳴る度に城外支所へ行って返信が届いているか確認してくれるかな」


「いいぞ」


 不信感丸出しのルパートを尻目にユウはトリスタンに指示を出した。すると、再びヴィアンがユウに声をかける。


「ユウ、私たちはこの後待つだけか?」


「そうですね。手紙が来るのを待って、返信が届いたらその内容を検討して、たぶんまた手紙を送って待つのかな?」


「なかなかもどかしいな」


「動きたくなりますけれど、ここは我慢だね。それと、しばらく外へは一切出ないようにするよ。町の中との話をまとめるまではこの宿を離れられないから、せめて余計な動きは見せないようにしないと」


「もどかしい上に窮屈だな。せめて1日に1度くらいは酒場に行きたいが」


「話がまとまったらね」


 若干渋い表情をしつつもヴィアンは肩を落として沈黙した。ユウが正しいことはヴィアンも理解しているのだ。


 今後数日間の方針を決めた4人は借りた宿の部屋に閉じこもった。ユウは自伝の続きを書き、他の3人は森からの帰還直後だったので寝台で寝転がる。


 どんな内容の返信が送られてくるのかわからない時間を過ごした4人だったが、四の刻の鐘が鳴るとトリスタンが宿を出た。ユウたち3人は保存食を食べながら待つ。


 戻って来たトリスタンは意外なことに封筒を携えていた。最初に知ったユウは驚きつつもヴィアンとルパートのいる部屋に移る。


「2人とも、返信の封筒が届いていたみたいだよ」


「なんだって? 随分と早いな。あの受付係、やるじゃないか」


「あの態度はいただけませんが」


「ヴィアン、これがその封筒だぞ」


 ユウのかけた声に2人は驚き、ルパートが信じられないという表情を浮かべている間にトリスタンがヴィアンに封筒を手渡した。ヴィアンは受け取った封筒から手紙を取り出して読む。


「ルパート、荷馬車は出してくれると思う?」


「用意はしてくれるだろう。あそこの商会は私たちを支援してくれているからな」


「冒険者の装備一式を取りそろえるときに、あれだけ用意してくれたもんね」


 依頼を引き受けることになった初日のことをユウは思い返した。応接室にたくさんの武具や道具が運び込まれ、選ぶのが大変だったという印象が強い。


 2人が話をしている間にヴィアンが手紙から顔を上げた。そうして他の3人に告げる。


「こちらが要求した荷馬車なんかを用立てることには同意してもらえた。ただ、細かい点を詰めたいから1度話をしたいらしい」


「それは当然でしょう。向こうへ出向く者を早速選びましょう」


「いや、町の外にある冒険者ギルドの城外支所で話をしたいとのことだ。明日の五の刻と指定されている」


「では全員で」


「行くのは2人に絞ろう。私とユウで行く。こういう交渉ならばユウが得意だろうし、最終的な決定は私がいたらできるからな。4人で出向くより目立ちにくいだろう」


「いえ、私は同行させてください。3人でもそこまで目立たないでしょう」


「僕も3人で良いと思う。トリスタンは留守番をしていてくれるかな」


「構わないぞ」


 この状況でヴィアンから自分が離れることを懸念したルパートをユウが支持した。そして、ユウが支持したことによりヴィアンも承知する。


 こうして交渉に臨む要員が決まった。

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― 新着の感想 ―
仕事の関係とはいえ身分差があるにしては良い付き合いが出来てる二人ですし、このピンチを乗り越えて本懐を遂げて欲しいですね。
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